第73話 ケツを食い散らかしてる
その前にもう一匹モンスターがいたな。
オレンジ色のスライムだ。
まあこいつはどうせスライムだし弱いからほっといてもいいが、でもバジリスク戦で抱卵していたコカトリスを放置したらあとで痛い目見たからな。
今倒しておくのがいいだろう。
スライムなんて刀で細切れにすればすぐに息絶える。
俺は刀を片手でもってスライムに近づくと。
なんと、スライムがむにゅっと動いて人間みたいな形になった。
「な、なんだ……?」
そしてそのスライムは両手(?)をばっと地面につくと、人間でいうところの、土下座を始めた。
見事な土下座だった。
頭(?)をなんども地面にうちつけ、両手を拝むように頭上でこすりあわせている。
「ねえお兄ちゃん、もしかしたらこれ、命乞いしてる?」
スライムってそんなに知性があったっけかなあ。
「いや、動じずに倒そうよ。知性があるならなおさら厄介だよ」
ローラがそういう。
ま、そうだな。
「えー、かわいそうじゃない?」
「かわいいといえばいえなくもないけど……?」
このSSS級ダンジョン内でかわいそうだとかかわいいとか言ってたら、こっちの命が持っていかれるんだぞ。
「いや、倒そう」
まあ命乞いするモンスターをいちいち倒すのは気が引けるってのはなくもないけどさ。
もともとギューキに捕食されそうになっていたんだから、少なくともギューキよりは弱いんだろう。
今はマネーインジェクションしてるんだ、負けるってことないだろう。
なにしろしょせんはスライムだからな。
スライムはいっぱい種類がいるけど、強いスライム種なんて聞いたことない。
それでも、倒せるときには倒しておいた方がいいよな。
「お兄ちゃん、いじわるー」
「あのなー……」
ま、正直油断していた。
だってスライムだもん。
俺が振り向いて
スライムなのに走るのかよ。
「ローラ、追いかけてくれ」
音速のローラが追いかけて倒せばいいとそう思ったんだけど、
「ん? もう倒した? 私、ハラミが好きなんだよね―」
そのローラはギューキの身体の解体を始めていてそれどころじゃないみたいだった。
そうこうしているうちにスライムはあっというまに視界から消える。
……ま、いいか、スライムだし。
初心者のうちから今まで、スライムなんて何千匹も倒してきたし、あんな感じだったらもう二度と俺たちの前に姿を現すことはないだろう。
それより牛肉だ。
牛鬼ってやつは日本の各地に伝承が残っていて、その地方ごとに伝わっている姿が違う。
頭部が鬼で身体が牛だとか、逆に頭部が牛で身体が鬼だとか。
少なくとも、俺たちの目の前にいるそれは、頭部と胴体が牛で、足が蜘蛛になっている。角は鬼だけど。
胴体部分は牛なんだから、食うところがありそうだ。
「モトキは牛肉と蜘蛛の足、どっちが好き?」
「牛肉だよっ! なんでそんなこと確認したんだよ!?」
蜘蛛ってチョコレートの味がするとか聞いたことあるけど、それは胴体であって足ではないし、目の前に牛肉と蜘蛛の足があって蜘蛛を選ぶ人類なんて存在しないだろう、そして俺は人類なので牛肉を選ぶのだ、完璧な三段論法だな。
ローラと
マネーインジェクションしてやったのですごく早い。
それを俺と、料理が苦手なみっしーが並んで眺める。
「ほんと、
「まあ、俺も自分でできるけどなー。ある程度はできた方がいいかな」
「……そっか、じゃあ地上に戻ったらお料理教室とかに通おうかなー」
そこに突然、別の声が。
「私、料理、いらない。肉、かぶりつく。野菜、人間に必要ない。基樹、私とともに肉を食おう」
アニエスさん、石化から戻ってたのか。
うーん、まあ肉にかぶりつくのもいいけど、そればっかりだとなー。
「でも料理は楽しいからやった方がいいと思うけど。俺、野菜も嫌いじゃないし」
俺がそういうと、アニエスさんはむむーと唇をへの字にしてから、
「そっか、モトキがそういうなら、わたしも、料理、習う。モトキ、アメリカではな、バーベキューで肉の焼けない男は駄目男。おまえ、バーベキューの焼き方を習え」
「いや、肉くらい焼けるぞ俺は」
「そうか、それでこそ私のパートナー」
そこにみっしーがぼそっと、
「アニエスさん、基樹さんの仕事のパートナーになるんだね、頑張って」
「いやじんせ」
「仕事のパートナーがんばって!」
「生涯の」
「探索者の仕事がんばって! 私はお料理がんばるよ!」
「いやだから結婚「基樹さんアニエスさんが仕事のパートナーになってくれてよかったね!」
なんかケツを食い散らかしてるなー。
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