第69話 化粧水
「で、アニエスさん、この二人は……?」
のたうちまわっているみっしーと
苦しそうだな、はやく助けてやりたい。
俺の舌がまだ痛む。
さっき無理やり舌ピアスさせられたせいで、なんか舌がごろごろしてる。
「アニエスさん、これ、状態異常を防ぐ宝石ですよね? マジェスティクリスタルっていうんですか、これってもうないんですか」
「ない。ひとつだけ、予備をローラが持ってた。それだけ」
「じゃあ、どうしたら……」
ローラさんが何かを自分のリュックから取り出した。
「これ、使う? 私の私物だけど」
「ん、なんだこれ?」
あ、化粧水のビンか。
まあ普通の化粧水のビンだけど……?
なんというか、ちょっとなめらかな曲線でデザインされた、そうだな、長さ十五センチ、太さ4センチくらい? の円筒状の琥珀色のビン。
まあ、化粧水なんてよく知らんけど、たぶん珍しくもないような……?
聞いたことあるブランドの名前が書いてあるしな。
でも、なんかのマジックアイテムなのかもしれない。
「使うってどうやって……?」
「ほら、これ、ちょうど女の子のあそこに入りそうだし、これで自分をなぐさめてもらえば……」
「俺の大事な妹とお預かりしている人さまの娘さんに何させようとしてんねん!」
俺は化粧水のフタをとって手の平に出すと、ペタペタと自分の顔につけた。
おぉ~~~もちもちすべすべになるぅ!
めっちゃいっぱい出して腕とかにも塗りたくった。
これで俺ももち肌男子だな。
「あ、それまじ高い奴なんだけど! 十万円くらいするんだけど! 男にはもったいないからやめて!」
「そんなもんを人の妹のどこに突っ込まそうとしてたんだよ!」
いや、こんな馬鹿な会話してる場合じゃないな……。
「も、もう我慢できない……お、お兄ちゃん、それ貸して……」
「だめだ、我慢しろ!」
あの小さいころからかわいがっていた妹の醜態に、胸がしめつけられる。
サキュバスかなんかしらないが、絶対に許さんからな。
あ、あ、あ、やばい、
俺はあわててみっしーと
二人で絡み合って怪しげなことやると悪いので、その状態で背中合わせに座らせてさらに縛る。
「お兄ちゃん、これ外してぇ……」
足をぱたぱたさせる
「なんか……変なの……身体が……熱いの……苦しいの……」
涙を流してそういうみっしー。
〈なにこのエロ〉
〈っていうかこの縛り方刑事ドラマでしか見たことない〉
〈この声だけで抜ける〉
〈ふぅ・・・〉
〈ありがとう〉
〈助かる〉
〈助かる〉
〈いや、ちょっと二人の反応がマジすぎて助かるとかいうレベルじゃない〉
〈たすか・・・いやさすがにちょっと引く〉
〈なんかここでスパチャ投げると別の意味が発生しそうだからむしろ投げないぞ俺は〉
「……アニエスさん、ローラ、これ、どうしたらいいんだ……」
「淫魔を探してやっつける。簡単」
「なるほど。で、どうやって探すんだ?」
「淫魔は霊体で実体を持たない。人の夢に入り込んでくる。私は石化してしまうからうまく睡眠に入りづらい。ローラは……」
アニエスさんはちらりとローラを見て、
「こいつは普通にスケベだから淫魔に負ける」
言われたローラは、ほっぺたを膨らませて、
「失礼なこというねー。あのさー、私なら淫魔相手でも大丈夫だよ」
「ローラ、さっき、普通に催淫かかってた。遺伝子的に耐性がないのかも」
「……それって私がスケベ遺伝子もってること?」
「うむ。で、モトキ、お前が寝れ」
……どういうこと?
「あのねー、淫魔は夢の中に入り込んでくるから、そのマジェスティクリスタルを装着した状態で寝ればさー、催淫にかからず夢で淫魔とご対面できるってわけ。そしたら淫魔が誘惑してくるけど、それに負けないでどつけば終わり」
「なるほど、簡単だな。……でも寝ろといわれても……」
「ほら、これ飲んで」
ローラが差し出してきたのは、なんか怪しげな小さい紙袋。
中を覗いてみると、なんか蛍光ピンクにキラキラ輝いている粉薬のようなものが入っている。
「……これ、もしかしたら、睡眠薬?」
「うん。っていうか、強制睡眠のマジックアイテム。この紙袋ごと敵に投げつけるとそこで破裂して敵を眠らせるんだけど、ま、そのまま飲めばぐっすり眠れるよ。十五分で目が覚めて、健康に害なし。ただし、その十五分の間はなにしても目が覚めないけど。十五分でケリつけてきてね」
アニエスさんもうなずいて、
「以前、パーティメンバーも同じことやってた。催淫にさえかからなければすごく弱くて楽勝といってた。だから早く飲め」
うーん、しょうがねえなあ。
……これ、どんな味がするんだ?
さすがにちょっとはためらっちゃうけど……。
ま、やらなきゃいけないことは悩まずにさっさと身体を動かして終わらせた方が早いからな。
俺はその紙袋に入った粉薬を口の中に放り込むと、水筒の水で流し込んだ。
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