第61話 ギョーザ
俺の手の平を火口として、目の前のバジリスクたちを爆発的な噴火が襲う。
爆炎と溶岩が耳をつんざくような音とともにダンジョン内を埋め尽くした。
というか、真っ黒な煙がこちら側にまでモクモクと襲い掛かってくる。
「やばいやばいやばい、窒息しちゃうよ! 輝け! あたしの心の光! 七つの色、虹の力、壁となりてあたしたちを護れ!
いやーやばかった、まじで
1000万円近くのマネーインジェクションすると、攻撃魔法ってここまで威力が増すんだな。
〈すげー!〉
〈ちょっと待って、お兄ちゃん魔法使いとしてもウィザード級じゃん〉
〈こんな強烈な魔法、初めて見た〉
〈CGだろ?〉
〈すごすぎて笑えてくる〉
〈もう国税庁以外、お兄ちゃんを倒せるモンスターはいない〉
〈これ経費に落とせるだろ〉
〈いや議論の余地はあるぞ〉
〈ローラの耳のかたちは96点。格闘技やっているからギョーザ耳になりかけてるのも点数たかい〉
〈ギョーザ耳は高得点なのか、基準が知りたい〉
「……ギョーザ耳はコンプレックスだから髪の毛で隠してたのに目ざといねー」
いやー、ごめん。
そいつは一応アニエスさんと俺たちの恩人でもあるからちょっとは許してやってくれ。
ちなみにギョーザ耳っていうのは、寝技の練習とかしまくっていると耳の傷から雑菌が入って耳の形が変形してしまう現象の俗称だ。
まあそれはどうでもいいか、俺の魔法の効力が切れると、爆炎と噴煙は休息に収まっていく。
ベビーバジリスクはもう骨も残らず焼け死んだみたいだ。
親の方は……。
うわ、真っ黒に焦げているが、まだもぞもぞと動いている。
どんだけ生命力が強いんだ。
俺は刀を構えると、バジリスクに向かって走り出す。
さっきの魔法の影響で空気が熱い。
俺はバジリスクの正面に立つと、
「苦戦させられたが、これで終わりだ。武士の情けだ、介錯してやる!」
刀を一直線に振り下ろす。
バジリスクの頭部はまっぷたつに割れて、もう完全に動かなくなった。
完全勝利だ。
だけど、俺たちもそれなりのダメージは残った。
〈武士の情け〉
〈介錯〉
〈草 今令和だぞ〉
〈お兄ちゃん、ちょっとそのセリフは……〉
〈武士の情け! 素で言っているの初めて聞いた〉
〈草〉
〈お兄ちゃん素敵〉
〈武士の情けだ、介錯してやる! ←切り取ってショート動画にしていいですか?〉
〈インスタのストーリーにしたわ〉
〈お兄ちゃんかわいい〉
うう、失敗した、なんか恥ずかしい……。心にダメージを食らってしまった……。
それに、ローラさんはまだ体の修復中だし、
みっしーは無事だけど。
アニエスさんが石化してしまっているのだ。
俺はアニエスさんの側に行ってその身体を観察する。
身に着けていた風呂敷とマント以外、生身部分の身体は完全に石化してしまっている。
光沢を帯びたつるつるの質感。
石化について詳しくはないけど、これでも生きてはいるはずだ。
……マネーインジェクションで治せないかな?
「セット、10万円」
俺はアニエスさんの身体に注射針を打とうとして……。
ポキン、と注射針が折れた。
うん、試しにやってはみたけどやる前からそうじゃないかとは思ってた。
「アニエスちゃんの石化治せない? 誰か、全快癒の魔法使えないの?」
ローラさんが俺にそう尋ねる。
そう、SS級以上の治癒魔法系探索者ならば、すべての状態異常を治せる全快癒の魔法を使えるはずだ。
だけど。
俺は攻撃魔法しかつかえないし、みっしーはD級だし、
全快癒の魔法は使えない。
「ね、お兄ちゃん、あたしにマネーインジェクションしてよ。大治癒の魔法でどうにかならないかな?」
うーん、全快癒は状態異常まで治せるが、大治癒の魔法はあくまでケガとか体力の回復魔法だからなー。
ま、やってみるか。
実際、試してみたが、アニエスさんの石化を治すことはできなかった。
あれ、バジリスクを倒したはいいけど、これって結構ピンチじゃね?
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