第60話 やりたい放題やられた

 やばい、対応が間に合わない!

 俺は注射器をローラさんの身体に突き刺しながら、バジリスクの大きな口を見た。

 でかくて鋭い牙、先が二つに割れている真っ赤な舌。

 そして、その奥に毒々しい色のエネルギーがたまっていくのが見えた。

 そしていままさにポイズン・ブレスを俺たちに向けて放出しようとしたとき。


「集まれ水の精霊! 手を握り合え、凍てつきつぶてとなりてすべてを砕け! 氷礫アイスボール!!」


 みっしーの氷の魔法がバジリスクの頭部に命中した。

 その衝撃でポイズン・ブレスの軌道がずれる。


「助かったぜ、みっしー!」


 しかし、なんで目が見えないはずのバジリスクが俺たちの動きを補足できてるんだ?


「……熱かもしれない……」


 マネーインジェクションで回復しつつあるローラさんがやっとのことで上半身を起こしてそういった。

 やっぱこの人もすごいな。

 いくら俺のマネーインジェクションで身体が回復したとはいえ、あれだけめちゃくちゃにやられたら精神的ショックも強すぎて起き上がってくるなんて無理だと思うんだけどな。

 やっぱ世界トップレベルの探索者ってのはどっかメンタルがぶっこわれてるんか?

 それはともかく。


「熱? どういうことだ?」

「ガラガラ蛇とかさ、ニシキヘビとかがそうなんだけど。蛇の中にはピット器官というものを持っているやつらがいて、そいつらは熱を検知する能力があったりするんだよ……。暗闇の中でも獲物を狩ることができるんだ……。はふ、はふ、はふ……」


 まだ痛いんだろう、顔をしかめて荒い呼吸をしている。


「……さすがにまじで死んだと思ったよ。人生で一番痛かった……」


 まあ全身の骨がバキバキにおられたからな。

 今もまだ回復途中だから、腕とか足とかが変な方向に折れ曲がったままだ。

 顔が真っ青で冷や汗かいてるけど、こんな状態でよく喋れるなこの人。

 しかし、そうか、熱か。

 俺たちの体温を検知することで、目が見えなくても俺たちの居場所を正確に把握していたってことか。

 やってくれたな。

 石化したアニエスさん。

 全身の骨をぶちおられたローラさん。

 紗哩シャーリーだってベビーバジリスクに肉を食いちぎられて出血している。

 ほんと、本当に、やってくれたな。


「セット、200万円!」


 俺はバジリスクをにらみつけながら注射器を自分の腕に入れる。

 バジリスクは口を開き、またもや卵をそこから吐き出した。

 またかよ。

 十数匹の赤ちゃんバジリスクが卵を突き破って孵化し、熱を頼りに俺たちの方へと這いずってくる。

 こいつらには暗闇の魔法の効果がない、また目があったらアニエスさんみたいに石化しちまう。

 まじでSSS級モンスターってのは恐ろしいぜ。

 ……やりたい放題やられた。

 だが、今度こそ、これで終わらせてやる。


 俺はみんなを護るように前に出る。


 そして、ある魔法を使う決心をした。

 俺が使える中で最も強いけど、完全にはマスターしていない魔法。

 だから、普段なら制御も難しくて、練習でしか使用したことがない。

 だけど。

 今はもう、俺は俺自身に1000万円に近付くほどのマネーインジェクションをしている。

 体力や攻撃力もそうだけど、魔力やそれをコントロールする力、すべての能力が底上げされて、レベルアップされているのを感じていた。

 そうか、ここまでマネーインジェクションすると、人間ってのはこういうステージに立てるのか……。

 つい最近まで一万円のインジェクションが最高額だったから知らなかった。

 俺のスキルによって、俺の力は無限大に強くなる……。

 俺はバジリスクたちへ向けて、詠唱をはじめた。


「地の底の底、燃えさかるマグマ、すべてを焦がし溶かす灼熱の溶岩! 燃えろ、俺の魂! 俺の力を、心の力を、魂の力を、血液を、筋肉を、すべてを燃料に変え爆ぜろ! 火砕流となって敵を滅しろ! 火山弾ヴォルケーノアタック!!!」

 



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