第50話 ペロペロペロ

 俺はまずみっしーの元に駆け寄る。

 肩のあたりにぶすりと注射針を刺す。


「んん……!」


 みっしーもそろそろ慣れてきたのか、黙ってそれを受け入れる。

 いつも注射の仕方にやさしさが足りないと叱られているけど、やさしく注射するようなシチュエーションにならないからなあ。

 次に紗哩シャーリーにもインジェクションする。


「輝け! あたしの心の光! 七つの色、虹の力、壁となりてあたしたちを護れ! 防護障壁バリアー!!!!」


 紗哩シャーリーが防壁の魔法を唱えた。

 あの爆炎の魔法にも耐えきった100万円分の防壁だ、これでコールドブレスも防げるだろう。

 俺はそのまま四体のフロストジャイアントに向かっていく。

 一体はすでにアニエスさんが首を切って殺している、さすがだ。


「アニエスさん! 俺のスキルでパワーアップする! こっちきて!」


 俺が叫んだ次の瞬間にはアニエスさんが俺のすぐ隣にいた。

 すげーな、さすがは世界最高のニンジャだ。


「インジェクターオン! セット、300万円!」


 俺の手の中に注射器が出現する。


「……それ、どうする?」

「いや、注射するから腕出して!」

「やだ」

「なぜ?」

「ちゅうしゃ、こわい」


 あほかぁ!

 え、この人、まじでこれをいっているの?


「いや、そんなこと言ってる場合じゃないです、打ちます!」


 俺はアニエスさんの腕に注射器を刺そうとして――。

 するりとそれをよけるアニエスさん。


「え、まじでいってるの?」

「こわい」


 いや、そんなことを言ってる場合じゃないんですけど?

 ほら、フロストジャイアントがすぐそこまで……。

 俺は今度はアニエスさんの肩に注射器を刺そうとするけど、それも超高速でよけるアニエスさん。


「やっぱり、こわい。それ、なかはえきたい? エネルギー? それだけほら、ここにチューってだせ」


 アニエスさんが口を開けてその中を指さす。

 ちっちゃ舌をペロペロペロと動かしている。

 ええええ……。


〈エロい〉

〈やばい、ロリの舌やばい〉

〈エッッッッッ〉

〈おいしそう〉

〈ペロペロペロペロ〉


 ほんと、コメント欄はアホしかいないな……。

 それはともかくだ。

 口の中に注射器の中身だけ出せってこと? それを飲み込もうっての? それでいいの?

 今まで注射以外で試したことないしなあ……。

 やったことないからわからん、はっきりいって300万円をそんな成功するか失敗するかわからないことに使いたくない。


「はい、わかりました」


 と俺はいって、アニエスさんの口の中に注射器の中身を出すフリをして――。


「てい!」


 フェイントかけた上で注射器をアニエスさんの太ももにぶっ差した。


「アウチ! こ、このわたしに攻撃を成功させる、おまえ、すごいな」


 いやー、俺も今300万円分のパワーアップしてるからな。


「アニエスさん、じゃあ二人で行きますよ!」

「覚えていろよ」


 俺とアニエスさんは並んでフロストジャイアントに向かっていく。

 先ほどと同じように攻撃をかわしながら足に切りつけ、地面に倒す。

 こいつら生命力すごいからな、確実にとどめを刺さなければならない、俺はフロストジャイアントの頭を刀でかちわってやった。

 うわぁ、脳みそがどろっと溶け出して……やばっ!

 さて、あと三体かな、と思って顔を上げると、そこにはすでに三つの巨大な生首が並んでいた。

 アニエスさんがあっというまに三体なぎ倒したのだ。

 すげえ。


「モトキ……モトキ。お前、スキル、すごい。身体、かるい。おまえのスキル、わたし、相性、最高……」


 アニエスさんは自分の手の平を眺めながらそういい、キッと俺を見上げてこういった。


「わたし、ずっと、パートナー、探していた。強い男、パートナー。人生、ともに戦う、パートナー。モトキ、おまえ、わたしとともに、生きないか?」


 真剣なまなざし、青い瞳がじっと俺をとらえて離さない。

 ひゃー、という悲鳴が後ろの方で聞こえた。

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