第40話 全額いったれ
人工太陽が生み出す激烈な日光は、風呂敷越しにも俺の背中をジリジリと焼いた。
俺の腕の中で両手足を切り取られたアニエスさんが暴れまわる。
今は俺もアニエスさんも、ヴァンパイアとなっているのだ。
何かの拍子に風呂敷からでてしまったら、その瞬間に灰となるだろう。
俺は必死になってアニエスさんを抑え込む。
そう。
この光を浴びたら、ヴァンパイアは灰となるのだ。
これはあとからみっしーと
俺によって両足と片腕を切り取られたヴァンパイアロード、アンジェラ・ナルディは、みっしーが作り出した小さな太陽の光をもろに浴びた。
それも、かなりの至近距離で。
再生しかけていた腕や足も、瞬時に焦げて灰になっていく。
「ぐがぁぁぁっ! この地下奥深くで、まさか太陽を作り出すとは……この女……!」
みっしーをにらみつけるアンジェラ。
「ひゃー!」
その眼光におそれをなして
そりゃそうだ、SSS級、魔王級とすら呼ばれるヴァンパイアロードに個体識別されて憎悪の視線を向けられたのだ、ただの十六歳の女子高生配信者にそれを跳ね返すだけの精神力は普通ない。
そもそも、太陽を作り出したのはみっしーの能力というよりも、俺のスキルであるマネーインジェクション200万円のおかげだしな。
アンジェラの身体がぼろぼろと崩れていく。
そこに
「空気よ踊れ、風となって踊れ、敵の血液とともに踊れ!
人口太陽の光でもろくなっていたアンジェラの身体は、細かく切り刻まれていく。
「おもしろい……! おもしろい……!! 次に会ったときはこうはいかぬぞ……! わが復活の時を待っていろよ……!」
それを最後のセリフに、SSS級、魔王クラスと称されたアンデッドの女帝、ヴァンパイアロード、アンジェラ・ナルディの身体は、すべてが灰となって崩れ去り、そして
みっしーの魔法の効果が切れ、人工太陽は静かに消え去る。
さきほどまでのまぶしい光が嘘のように、ダンジョン内は再び薄暗くなる。
俺は風呂敷をはずし、身体を起こす。
「勝った……勝ったぞ……」
〈すっげえええええ!!〉
〈SSS級のヴァンパイアロードに完全勝利〉
〈お兄ちゃんのスキルのバフ能力が史上最強レベル〉
〈まさか太陽を作り出すとか〉
〈みっしーがやった〉
〈さすがみっしー〉
〈さすみし〉
〈おめでとう!〉
〈やばすぎる、強すぎる〉
〈もう世界最強パーティじゃないか〉
〈やったーーーー!!〉
〈congratulations!〉
〈お兄ちゃんの刀さばきがすごすぎる〉
〈シャリちゃんよくがんばった!〉
〈お兄ちゃんケガ大丈夫?〉
〈アニエスはどうなったんだ?〉
〈治療が終わるまでまだ気が抜けない〉
コメント欄が喜びと称賛であふれる。
でも、確かに俺はまだ右足を失ったままだし、アニエスさんは……。
やばい、そうだ、アニエスさんを早く救わなきゃ!
アニエスさんをヴァンパイア化させたアンジェラが消滅した以上、今のアニエスさんはただの人間だ。
それが、両手両足を切り落とされているのだ。
アニエスさんを見る。
青いメッシュの入った金髪セミロングの髪の毛は、今や乱れに乱れてぐしゃぐしゃだ。
着ている青いドレスは自らの出血でどす黒く変色している。
切り落とされた両手両足の傷口からの出血は止まっているが、アニエスさんは小さなを胸をかすかに動かしてやっとのことで呼吸している状態、意識はなさそうだ。
「
「うん! ……あたしのマナよ、あたしの力となりこのものの傷口を癒せ!
俺も急がないと!
できることは全部やる!
「インジェクターオン! セット、gaagle Adsense! 残高オープン!」
[ゲンザイノシュウエキ:1,184,300エン]
闘いの最中でもスパチャは入っていたみたいで少しは増えてるが……。
「……あたしのマナよ、あたしの力となりこのものの傷口を癒せ!
「おいおい、俺はいいからまずアニエスさんだ! 連発してくれ」
「だってお兄ちゃんが……あたしお兄ちゃんの方が大事だし……」
「いいから! 妹なら兄のいうこと聞け、アニエスさんに!」
「うん、わかった……」
しょうがないやつだ。
とにかく、アニエスさんを救わないと!
「セット、118万4300円!」
もう全額いったれ。
俺は注射器を、ほとんど死にかけているアニエスさんの肩にぶすっと刺した。
さすがにこれで命は救えるだろう。
だけど、失った手足は……?
うう、これ治らないとやむを得なかったとはいえ、切り落としたのは俺だしなあ……。
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