第33話 巨大手裏剣
「ゴアァァァ!!」
ドラゴンゾンビが
ダンジョンの床が揺れる。
さすがにものすごい迫力だな。
ゾンビとはいえ、ドラゴンと対峙するのは俺にとってこれが初めてだ。
ドラゴンって、一番弱い種族でもS級だからな。
このドラゴンゾンビはSS級らしい。
なんだか感覚が麻痺してるけど、SS級のモンスターを倒せる奴なんて、日本に百人もいないはずだ。
それだけの強敵を目の前にしているのだ。
気を引きしめて戦わないと。
俺たちをにらんだまま、ドラゴンゾンビは大きく口を開けた。
ブレスが来る!
SS級のブレスなんて、まともにくらったら一撃でパーティ全滅が普通だぞ。
「輝け! あたしの心の光! 七つの色、虹の力、壁となりてあたしたちを護れ!
すかさず
50万円分インジェクションされた紗哩のそれは、強力な壁となって俺たちを守る。
ドラゴンゾンビは間髪入れず、
「ゴハァァァァァァァァァァァァァッ!!」
すべてを凍らせ沈黙させる、恐るべき氷のブレスを吐いた。
これを食らった人間は通常なら瞬時に肉体が凍り、その部分は瞬時に壊死して、最終的には命まで落とすことになる。
命を狩るほどの力を持つ冷気の塊を、
さすが俺の妹だ、なかなかの魔法だ。
「雷鳴よとどろけ! いかづちの力を解放せよ! サンダー!」
みっしーは最後方から稲妻の杖を振るって雷の魔法を連発している。
バリバリバリッ! という雷特有の音とともに、杖の先から稲妻が一直線にドラゴンゾンビへと向かっていく。
SS級モンスターであるドラゴンゾンビには致命傷を与えることはできてないけれど、その皮膚表面を電気が走り、焼き焦がしている。
ドラゴンゾンビは明らかにそれを嫌がってみっしーの攻撃が命中するたびに、
「グガァ!」
と雄たけびをあげていた。
よし、頃合いだな。
俺はドラゴンゾンビの動きの隙を見極めると、床を蹴って一気にダッシュ、距離を詰めた。
ドラゴンゾンビと目が合う。
普通の人間なら泣いちゃうくらいの迫力があるぞ。俺は泣かないけどな!
「シュゴォォォ……」
ブレスを吐くために一度空気を吸い込むドラゴンゾンビ。ゾンビのくせに呼吸してるのか。
ドラゴンゾンビが俺に向かって氷のブレスを吐こうとした瞬間。俺は壁に向かって真横に飛んだ。
俺の動きについてこられず、ドラゴンゾンビはブレスを吐くタイミングを失う。
俺は壁に両足で"着地"すると、そのまま壁を蹴ってドラゴンゾンビの胴体に突きかかった。
予想外の動きにドラゴンゾンビは回避動作ができない。
俺の刀はいともたやすくドラゴンゾンビの身体につきささった。
うお、なんて硬い筋肉だ、突き刺した刀が動かねえぞ。
「グオオォォ!」
ドラゴンゾンビがその巨大な爪で俺に反撃しようとして腕を振り上げる。
あれ、これやばいんじゃね?
そう思った直後。
「フロシキエンチャント! 硬化!」
物質を少しだけ硬くするだけの初級魔法だけど、50万円分のマネーインジェクションの力が加わっているのだ。
風呂敷は広がった状態でカチンコチンに硬化しており、まるで斬れ味鋭い巨大な手裏剣のよう。
四方の角のうち、一つだけは持ちやすいようにねじられている。
「えーーーーーーーーーーーい!!!! くらっちゃえ!」
と叫び、渾身の力を込めてドラゴンゾンビに向けて風呂敷をぶん投げた。
うーん、あんな細身でオリンピックの投擲選手なみの威力だ、さすがマネーインジェクション50万円。
ヒュンヒュン! と回転しながらドラゴンゾンビに飛んでいく風呂敷。
まさに巨大手裏剣。
ドラゴンゾンビはそいつを腕で振り払おうとしたが、硬化した風呂敷の回転力はドラゴンゾンビの防御力を上回っており、スパッとその腕を切り落とした。
すげえ、
「グガァァァァッ!」
唸り声をあげるドラゴンゾンビ。
やっと刀を引き抜くことができた俺は、その首に狙いを定めて上段に構えた。
そして、
「オラァァァァァッ!!」
気合とともに刀を振り下ろすと、刀の刃はドラゴンゾンビの皮膚を切り裂き、肉を切り裂き、骨を砕く。
ゴドン、という音とともに、その首が床に転がった。
勝った。
生まれて初めて、ドラゴンの一種を倒した。
〈すげえええええ!〉
〈シャリちゃんつえええええ!〉
〈風呂敷エンチャントってお兄ちゃんのマネーインジェクションと組み合わせると強い〉
〈っていうかマネーインジェクションがどんなスキルとも相性いいんだぜ、チートスキルだと思う〉
〈SS級のドラゴンゾンビをこんなあっさり倒せるとか、もうこのパーティSSS級認定してもいいだろ〉
だが、喜んでいる暇はない。
向こうから、大量のコウモリが飛んでくるのが見えた。
来たな、ヴァンパイアロード。
俺はいったん後退する。
みっしーと紗哩はそれなりにマネーインジェクションの力を使い果たしたはずなので、態勢を整い直さなければならない。
「セット、50万円!」
改めてみっしーと
「針の刺し方にやさしさを感じない……」
「わかる、ちょっと乱暴だよねー」
女の子たちの愚痴を聞きながら、俺は自分にももう百万円分のマネーインジェクションを打ち込んだ。
おそらく、これで残り400万円。
SSS級相手に、どう戦おうか?
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