第26話 うさちゃん社長

 タブレットでPOLOLIVE公式とのDMのやりとりをしていたが、それが終わったあと、俺はみっしーに言った。


「みっしー、みっしーんとこの社長さんがSSS級探索者を雇ったってさ。合流するまでここで待機してろだって」


 正直、これは俺にとっても朗報だった。

 なにしろ、なんだかんだいっても俺は元A級探索者に過ぎないし、妹の紗哩シャーリーだってA級だ。

 それが、世界最難関と言われるSSS級ダンジョンを踏破し、世界最強といわれるSSS級モンスターをやっつけるなんて。

 だけど、経験豊富なSSS級探索者がパーティを組んで助けに来てくれる、となれば話は別だ。

 かなりの心強さだ、なにしろ命が、俺だけじゃなくて妹とみっしーの命までかかっている探索だからな。


 俺たちは地下十階へのシュートを探し出し、とりあえず地下十階に降りてきた。

 あの虫だらけの地下九階にいるのはどうしてもどうしてもいやだというみっしーの意見を聞いたのだ。

 たしかにあの花畑、モンスタールームみたいなもんで次から次へと虫のモンスターに襲われ続けるから、気の休まる暇もない階層だったしな。


 地下十階はつくりとしては壁も床も石で固められた普通のダンジョンで、地下九階みたいな花畑ではない。

 なるべく安全そうで、湧き水を確保できるようなすみっこの場所をさがして、俺たちはそこを拠点にすることにした。


「でもさ、みっしーんとこの社長さん、宇佐田さんだっけ? すごいよな、7億2000万円だってさ。前金だけで3億円払ったらしいぞ。みっしーを連れて帰ったら俺たち兄妹にも3億円くれるって」


 俺が感心していうと、


「あはは、うちのうさちゃん社長、私のことが大好きだから。私はほら、けっこういいとこの家庭でかわいがられて育ったんだけどさー、うさちゃん社長はそれはそれはひどい家庭で育ってさー、泥水をすするような思いで起業して何年も苦労して、で、あるとき私を引き当てたってわけ」


 いまやチャンネル登録者500万人だもんな。

 POLOLIVE自体も、みっしーに続く人気配信者を何人も育てていまや業界大手だ。


「私も個人勢でほそぼそやってたんだけど、うさちゃん社長に拾われてさー、んでうさちゃん社長の考えた企画とかコラボとかやりまくってたらこんなに大きなチャンネルになっちゃった。うさちゃん社長にとって私は人生の希望の光なんだってさ」


 なるほどね。

 それで何億もの金をぽんぽん出すわけか。

 さて、SSS級探索者アニエスのパーティが来るまでは最短であと二日はかかるとのことだった。

 SSS級とはいえ、同じくSSS級ダンジョンである亀貝ダンジョンを初見で攻略するのだ、そのくらいはかかるだろう。

 俺もアニエスの名前くらいは知っている、この界隈だと有名だからな。

 今までにも十を超える数のSSS級ダンジョンを攻略してきた、世界最良にして最強の探索者といわれているのだ。

 会えたらサインくらいもらえるだろうか。

 合流できたらもうこっちの勝ちがきまったようなもんだな。

 さて、それまでに俺たちにはひとつの問題がたちはだかっていた。

 それは。


「お兄ちゃん、もうお肉の残りが少ないよ……」


 そう、食料だ。

 アニエスがここにたどりつくまで、最短であと二日、なにかアクシデントがあればもしかしたらもっと日数がかかるかもしれない。

 それまでにはコカトリスの肉の備蓄が枯渇する。

 そもそも紗哩シャーリーのフロシキエンチャントは冷凍じゃなくて冷蔵だから、さすがに一週間以上は持たないだろう。

 あと持っているのはわずかな米と香辛料くらいだ。

 ってことは。


「みっしー、紗哩シャーリー、小休止したら、狩りにいくぞ」


 そう、食料になりそうなモンスターを狩らなければならないのだ。


「うーん、お兄ちゃん、だったら地下九階のモンスターでよかったんじゃな」

紗哩シャーリーちゃんのばかっ」


 セリフをいいおわらないうちにみっしーが紗哩シャーリーの肩のあたりをぽかぽか叩いた。


「いやいや昆虫食はこれからの人類にとって大事な」

基樹もときさんもばかっ」


 俺もぽかぽか叩かれた。

 どうしても虫を食べるのは嫌だったらしい。

 ま、正直、あいつらすげー臭かったから俺もいやだけどな。

 焼き焦がされた虫のモンスター、とんでもない臭気を放っていたから、ちょっと食うのは無理だったとは思う。


 そんなわけで、俺たちはSSS級ダンジョンの地下十階を、食料をもとめてさまようことにしたのだった。


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