第22話 わかってやっておるな

 結局、交代で昼過ぎまで寝てしまった。

 途中起きてはコカトリスの肉をがつがつかっくらって、また寝入る、それを三人で順繰りに繰り返し、配信で雑談とかしていたらもう夕方だ。

 俺は慎重にカメラの向きを調整する。

 ぎりぎり、膝上まで。

 足元から、膝上までは映るようにする。

 絶対にそのラインを死守し、そこから上は映らないように慎重に、慎重に、なんどもテストを重ねた。


「よし、みっしー、紗哩シャーリー、いいぞ」

「はーい、お兄ちゃん! ……お兄ちゃんも、こっちは絶対向かないでね!」


 残高が少ないこともあり、また俺たちの疲労も極限まできている。

 したがって、今日一日は探索をやめ、休息にあてることとしたわけだ。

 だから、ダンジョンの中で比較的明るくて安全そうな水場を発見し、そこで休むことにしたのだ。

 ま、水場だからモンスターとかが水を飲みに来るかもしれんが、この亀貝ダンジョンはあちこちに湧き水があるし、特にここに集まってくるということもないだろう。

 ちなみにこのダンジョン、壁や床に使われている石材自体がかすかに発光していて、真っ暗ということにはならない。

 場所によっては壁や床が自然のままの土や岩だったりするところもあって、そういうことろは薄暗いんだが。


 さて。

 この場所は、俺の頭よりちょっと高いところから、ちょろちょろと水が湧いてきている。

 今日は9月5日火曜日、地上ではまだまだ残暑も厳しく、ダンジョン内はひんやりとしているとはいえ、普通に動き回っていると汗が噴き出してくるくらいの気温だ。


 で。

 つまり。

 シャワーだ!

 ついでに洗濯だ!


「えー、それではみなさん。今からみっしーと紗哩シャーリーがシャワー浴びます。特別サービスで足元だけ映してあげます。ま、そのあいだ俺と雑談でもしながらあいつらがシャワー浴びてるのを眺めてましょう。……わかってるよな、みんな? ほんとはこんな、妹のシャワーをお前らに想像させるようなこと、いやなんだけど、わかってるよな?」


【¥2000】〈合点承知の助! こういうことだろ?〉

【¥1500】〈サービス回ですねわかってます〉

【¥50000】〈最近この配信ばかり見てる〉

【¥34340】〈拝観料〉

【¥50000】〈みっしーのために定期解約した〉

【¥50000】〈俺は積み立てNISAを解約した〉


「みんな、ほんと……ありがとう」


 俺は素直に頭を下げる。

 金稼ぐっていうのは、本当に大変で、身体と体力すり減らし、下げたくもない頭を下げまくって精神的にも疲弊し、やっとのことで稼げるのが金ってやつだ。

 別に家族でもなんでもない俺たちに、なんの見返りもないのにこうやってスパチャをくれるみんなには、感謝しかない。

 その力で俺たちは生き延びることができるのだ。


「俺が脱いでサービスになるんだったら脱ぐんだが」


〈いらん〉

〈あ、それはけっこうです〉

〈俺はみっしーファンだから〉

【¥10000】〈お願いします〉

〈男の裸見て楽しい奴いるかよ草〉

〈お兄ちゃんの裸とか全然いらん〉

【¥5000】〈私はいります〉

〈うわ、いるのか〉

【¥50000】〈俺は親が不動産持っていて金持ちってだけだから〉


 親が金持ちなだけのやつはもっとくれ。

 ……くそ、このyootubeの仕様だと一人一日50000円までしかスパチャできないんだよなあ。

 みっしーというスターを抱えているのに、太客から大金いただくことができないのが歯がゆい。


「基樹さーん、そろそろシャワー、浴びていい?」

「お兄ちゃん、はやくしてよー。もう汗でべたべたで気持ち悪くて」


 おっと急かされてしまった。


「おう、いいぞ。いいか、カメラは足元映しているから、絶対にかがんだりしゃがんだりするなよ。あと転ぶなよまじで。BANされるからな」

「「はーい」」


 そして始まる女の子のシャワータイム。

 まあこんなことまでして金稼ぎはちょっと心が痛むけど、冗談抜きでもらえるスパチャの額が俺たちの命の値段になってしまう状況なので、ためらっている場合でもない。


「やーみっしーの肌ちょー綺麗! さすがJK! 背中洗ってあげるよー」

紗哩シャーリーちゃんも綺麗な身体してるじゃん! 洗いっこしよ!」

「やっだ、みっしー、そこくすぐったい! やん、もう!」

「えへへー、紗哩シャーリーちゃんはここがいいのかー! そうかー! ほれほれー!」

「んもー! ……っていうか、みっしーって、おっきいよねー……風船みたいにまんまる」

「恥ずかしくなるからあんまりそういうこといわないで! 紗哩シャーリーちゃんだって、すっごくきれいだよー。ほらほらほら、やわらかいし!」

「やん! きゃはは、もー! 触っちゃだめだよ―」

「うわー、紗哩シャーリーちゃん、すっごくハリがあってやわらかい……」

「もー、みっしーったら! お返しだー!!」



 背中を向けてる俺のすぐうしろで、キャピキャピしてる女の子二人。

 ……こいつら、わかってやっておるな。

 わかって百合営業しやがっておるな。

 女ってやつは怖いでござるな。

 妹のはともかく、みっしーの裸には興味があるので、後ろを振り向きたい衝動を俺は全力でこらえなきゃいけなかった。



【¥34340】〈シャリちゃん俺とかわって〉

【¥2000】〈ありがとうございます〉

【¥300】〈学生なので少ないですが〉

【¥1200】〈シャワー代おいておきます〉

【¥5000】〈・・・ふぅ〉

【¥50000】〈サラ金で借りてきた〉


「おい、借金はやめとけ、まじで。いいかー、借金だけはなしだかんな」


 俺たち兄妹は借金のせいで心中まで追い込まれたので、そこんとこには忌避感が強いのだ。


「おこづかいの範囲内でのご協力をおねがいするぜ」


 女の子二人組がシャワー終わったみたいだな。

 じゃあ、今度は俺が身体洗ってくるか。


〈お兄ちゃんのシャワーはべつにいいや。おやすみ〉

〈おやすみ〉

〈じゃあ今日はもういいや〉

〈おやすみ〉

〈ねるー〉

【¥10000】〈私はお兄ちゃんファン〉


「へー! お兄ちゃんのファンもいるんだー! あたしのお兄ちゃん、かっこいいもんね! あたし、大好き!」


 着ているものを洗濯したので、紗哩シャーリーとみっしーは風呂敷を全身に巻いている。

 シャワーあがりで布を巻いているだけなのだ。

 胸のところなんかこう、ぷにぷにしたとこが強調されて、なんか、こう、煽情的に見えなくもない。


【¥1200】〈おはよう〉

【¥1000】〈おはよう、目が覚めた〉

【¥20000】〈やっぱ今日はもうすこし起きてる〉

【¥34340】〈みっしー今日もかわいいです〉

〈全部脱いで見せろや、※※※※見せろ〉

【¥5000】〈エッ〉

〈あ、脱げって言った人BANされたな、モデレータちゃんと仕事してる。みんなも発言には気をつけろよー〉


 結局、このシャワー回だけで俺たちは、二百万円ほどゲットしたのだった。

 そのほかのスパチャも合わせれば三百万円ほど。

 ……これで明日からも探索を続けられるな。

 大事に使っていかなければならない。


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