第11話 最強のモンスター

「いい? 基樹もときさん、紗哩シャーリーちゃん。これから基樹さんがマネーインジェクションを使うときは、かならずそれを配信にのせてね? で、ちゃんとアーカイブを残る形にして」


 硬い表情でそういうみっしー。


「やっぱり、人気配信者ともなると、どんなことでも配信にのせちゃうんもんなんだな」


 と俺が言うと、みっしーは大きな声で否定した。


「違うの! そんなんじゃないの! 私は基樹さんがきっと私を生還させてくれると確信してる。で、そのあとのことなの。これをやっておかないと、ダイヤモンドドラゴンよりもおそろしいモンスターに人生を食われることになるの!」


 な、なんだと?

 SSS級ダンジョンのラスボス、SSS級モンスターであるダイヤモンドドラゴンよりも恐ろしいモンスター?

 そんなの、いるのか?


「みっしー、なんのこといってるの? そんなモンスター本当にいるの?」


 紗哩シャーリーがおびえた声で尋ねる。


「そうよ、教えたげる。そのモンスターの名は……」


 みっしーはそこでほうっと一息ついて、そして、キッと俺たちをにらみつけるようにしていった。


「国税よ!」

「は?」


「国税庁と税務署よ! あいつらやばいから! ほかの事務所の人だけど、税務調査に入られて財産全部もっていかれてた……。油断しているとすべてを奪われる……すべてを……。いい? 私たちは配信業としての必要経費として基樹さんのマネーインジェクションを使用するの、そうでしょ?」


「あ、ああそうだな……」


「なら、マネーインジェクションに使用したお金は当然、すべて経費よね? 全額経費計上! このスキル、さっきみると収益確定前の収益額まで使用できるみたい。たぶん日本ではこのスキルについての前例がないからこれについてどう判断されるか正直私にもわからない。だけど、あいつらは悪魔よ」


「みっしー、顔が怖いよ……」


「怖いのは税務署よ、どういう理屈をつけて課税してくるかわからないわ。だからそのリスクを避けるためにも、マネーインジェクション、特に高額のマネーインジェクションを使用するときは絶対に配信内でやること! 経費にするから! わかったね?」


 すげー迫力で言われた。

 そ、そんなもんなのか……。

 ダンジョン配信と税金……いままであんまり考えてこなかったな……。


「今回私がダンジョンに来たのも450万円の稲妻の杖を経費計上するためだから」


 それが今回のテレポーター事故につながったわけか。


「たとえ話をするね。たとえば十億円のスパチャがありました。そのうち九億円をマネーインジェクションで使いました。残りは一億円です。で、国税がその九億円を配信の経費として認めなかったら、税金は十億円に対してかかるの。半分くらい持っていかれるよ。わかりやすくいうと五億円を払えって言われる。手持ちが一億円しかないのに、五億円をどうやって払うの? 税金は自己破産しても免責されない債務だから人生終わりよ」


 迫真の語りだな。

 十六歳でこのリテラシーはある意味モンスター級だわ。


「まあ、税金についてはわかったよ。じゃあ、さっそくだけど、ええと、セット、gaagle AdSense! 残高オープン!」


[ゲンザイノシュウエキ 1,483,220円]


 すげーさっきの一瞬で百万円も入った。


「これ、みっしーの人気なら、、一日で数億円入りそう……」


 紗哩シャーリーがそういうと、みっしーはかぶりをふった。


「ううん、そうはならない。なぜなら、gaagleの規約で、人が一日にスパチャできるのは、50000円が限度って決まっているから。だから、一人のお金持ちが100億円スパチャしたくてもそれはできない」


 なるほどなあ。

 みっしーレベルだと、命を助けるのに数億円だす金持ちがいるかもしれんが、それはこのyootubeのシステム上無理ってことか。


「一人50000円までで、スパチャくれる方の人数は有限。だから、せいぜい一日数百万円だと思うよ。まあ、今日一日だけについてはもっと行くと思うけど、何万円も毎日スパチャし続けられるほどの余力のある人は限られているから、日がたつにつれ少なくなっていくと思う」


 ちなみにこういうときの会話は、マイクをオフにしてる。

 基本的には俺が身に着けているボディカメラで撮影したものを配信している。

 それとは別に紗哩シャーリーもボディカメラを持っているから、そっちに切り替えることもできる。

 このボディカメラは取り外して手持ちでも撮影はできるぞ。


 さて、みっしーの説明でいろいろわかったな。

 国民的配信者、みっしーが同行しているとはいえ、俺の能力を無制限につかえるわけではなさそうだ。


「さっきのカスモフレイムってS級モンスターなんだが、倒すのに十万円のマネーインジェクションが必要だった。このさき、SS級やSSS級と戦うこともあるかもしれない。その時のために残高は残しておかないといけない。だから、スキルの発動するときは、その金額を十分に考慮しなきゃいけないんだな」


 俺の言葉にみっしーはうなずき、


「私、yPhone持っているから、一応、私も配信はできるの。でも、基樹さんのスキルを最大限に生かすのにリスナーを分散させちゃいけないから、私は配信しないね。基樹さんのチャンネルにリスナーを誘導するのにちょっとだけはやるけど」


 うむ。

 いろいろ考えなきゃいけないな。


「んー、あたし難しいことわかんない……コクゼーってなに? ゼーキンは消費税で払ってるよ?」

「うん、紗哩シャーリー、お前は難しいことはお兄ちゃんにまかせとけ」

「はーい!」

「……二度と勝手にFXの口座開設したりするなよ……」


 紗哩シャーリーはかわいい妹だけど、アホなのが玉にキズなんだよなあ。

 税金についてわかっていないのに、万が一あんときFXで利益を得ていたとしても、納税とかしなさそうでこわいわ。

 もう一生俺が面倒見てやろう。


「さて、みっしー、その右手なんだけど」

「あー。やっぱ、切るんだよね……。さすがに怖くておしゃべりで先延ばしにしてたけど」


 まあ、腕を一本切るんだもんな。

 怖くないわけがない。


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