第9話 穴ではなくて。
なにせ百万円だ、こんな高額なインジェクションは俺も初めて。
さて、まずはこの左足、なんとかならないかな?
「あのー、美詩歌さん」
「さんづけはいらないです。私より年上でしょ? ……みっしーでいいよ!」
「……みっしー……、さん……」
うーん、年下とはいえ、初対面の人をニックネーム呼びはコミュ障の俺はためらっちゃうなー。
「みっしーでいいってば!」
日本一の配信者ともなると、超コミュ強だからなー。
「はい、みっしー」
しょうがないんで、みっしーのいうとおりみっしーと呼ぶことにした。
「あなたの名前は? あ、その前にまず言わせて! ……来てくれてありがとう! あんな状態で独りぼっちでいて、すごく怖くて不安だったの。誰か人が来た! って思った瞬間、人生で一番嬉しかったよ!」
太陽みたいに明るい笑顔で俺にそういうみっしー。
やべーまじかわええんだけど。
「で、名前!」
「あ、ああ、
「基樹さん! いい名前! それにそちらは……妹さん?」
「うんあたしは紗哩。更紗の紗にマイルの哩でシャーリーだよ」
「キャー! ヤバい、素敵な名前〜!! 紗哩さん、大好き!」
絶世の美少女にこんなこといわれて紗哩は、
「ええ~? そうかなー?」
とか言ってデレデレしている。
コミュ強こえー。
いやコミュ力がどうのというより、この子自身がこういうキャラしてるってことなんだろうな。
なんか腕を壁にめり込ませて片足もがれてる女の子の会話だと思うとちょっとシュールだ。
「じゃあみっしー、まずはその左足、なんとかならないか試してみるぞ」
俺はそう言った。
「え、腕からじゃないの?」
たしかに、みっしーの右腕はテレポーターのトラップのせいで壁と同化している。
……そう、同化しているのだ。
こっちのが厄介そうな問題だったので、後回しにする。
「いや、足から行こう。俺のスキルは“マネーインジェクション”。現金をマナ……つまりパワーに変えて、自分や他人に注入することができるんだ。自分のパワーアップとか、MPの回復とかもできるし、直接治癒スキルとしても使えるんだ」
「ほえーなるほどね、すごいね基樹さん、レアスキルだ」
「で、この注射器でパワーを注入するから……ほんと、ごめんだけど、お尻に打つんで……あの、ほら、太ももの根元から食いちぎられちゃってるし……」
「お、お尻……」
みっしーはその大きくてきれいな瞳で、注射器のぶっとい針を見つめる。
まあ、確かにこいつの針はバカでかいし、それなりに痛いので怖いのは当然だ。
「すー、はー、すー、はー、すー、はー」
深呼吸をするみっしー。そして、
「……うん、しょうがないよね、ちょっとおっかないけど、基樹さんにおまかせだ! お尻を出せばいいんだね」
そういってみっしーは俺が止める間もなく左手で水色のパンツのクロッチのとこをくいっと横にずらした。
「「!?」」
びっくりして声も出ない俺たち兄妹。
みっしーは顔を真っ赤にして、
「な、なるべく痛くないようにしてね……」
そういって片手で自分のお尻の肉を開いて俺の方に向けようとした瞬間。
俺は後ろから紗哩に目をふさがれた。
「ん? 何してるの、ふたりとも?」
不思議そうに尋ねるみっしーに対して、
「ちがーーーーーーーーーーーーーう!!!」
思わず大声で突っ込んでしまう俺。
「お尻といってもお肉の方! そっちの、あ、あ、穴じゃなくて!」
するとみっしーはやっと自分の勘違いに気づいたのか、
「ひゃーっ」
と短い悲鳴をあげて、
「あ、そういうこと? うわ、恥ずかしい……。あの、なし! 今のなし! 忘れて! 忘れて! はい、今の忘れたね!? 」
「はい忘れました!」
……ふう。
死にかけているのにこの緊張感のなさはなんだ?
やはりこれくらいの性格じゃないと日本人一億二千万人のトップクラスに君臨する配信者にはなれないってことだろうかね。
それにしたってビビったわ女の子のあんな場所、見ちゃうとこだった。
俺、間一髪で大人の階段を上ってしまうところだった……。
いやまあ俺ももう二十代の大人なんだけどさ……。
「お兄ちゃん、なにボーッとしてるの、早く治したげて!」
「あ、ハイ」
俺は慌てて注射針をみっしーの左の尻たぶに、ブスッと無造作に刺した。
「いだだだだだだだーーーーーっ! きゅ、急に刺すのは意地悪だってば!」
「うわっ、ごめん」
言われてみればその通りで、俺はあまりに動転していたのだった。
しかし、俺とおなじ立場にたったDTで動転しないというやつがいるんだったらここにつれてこい。
さてプランジャーをぐいっと押し込んでパワーを注入する。
「いっっっっったあああぁぁぁぁぁぁ」
「すまん、もう少し我慢してくれよ……」
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