第8話 金は命より重い?

「頑張って! きっと助かるよ! いくよ! ……あたしのマナよ、あたしの力となりこのものの傷口を癒せ! 治癒ヒール!!」


 紗哩シャーリー美詩歌みしかに治癒魔法をかけている。

 だけど、美詩歌は片足を失うという大けがを負っていて、紗哩シャーリーの治癒魔法だけでは十分ではなさそうだった。

 そもそも、A級の紗哩シャーリーだと、失った足をくっつけて治すほどの治癒魔法は使えない。そういうのはS級以上の探索者しか使えないのだ。

 と、その前に。


「悪いけど、いったん画面は消します」


 そういって俺は配信のカメラを切った。

 音声のみ伝わるようにしたのだ。

 なぜかって、美詩歌は今下着丸見え状態で、しかも片足をむごたらしく切り落とされている。

 十代の女の子のこんな姿が全世界配信されるなんて、かわいそうすぎるだろう。

 ……正直、助からない可能性もあるし、世間の好奇の目にさらさせるのはほんとうにかわいそうだ。


「ええと、針山美詩歌さん、ですよね」


 俺は確認する。

 まあいうまでもなく本人だろう、有名だから俺でも顔くらいは知っていたし。

 いやー、まじで美人さんですわ、こんなに整った顔、実際にみても人間のものとは信じられないくらい。

 これは神様に選ばれた種類の人間だな。

 美詩歌は俺の問いにかすかに頷く。

 やはり治癒呪文だけでは回復しきれない。

 俺のマネーインジェクションでパワーを注入してやれば、体力・精神力の回復が見込めるだろう。妹で何度もやってきたからわかる。

 だけど、問題は……。


「セット、大志銀行。オープン!」

[フツウヨキン:0円]


「セット、ようちょ銀行。オープン!」

[ツウジョウチョキン:0円]


「金がねえええ~~~~~!」


 これじゃ、詰みじゃねえか?


「ねえお兄ちゃん、さっきYootubeの方にいっぱいスパチャ入ってたけど、あれは使えないの?」


 そうか、あれを使えれば……。

 でも、俺のスキルはあくまで銀行の預金残高、ってきいてたけどな。

 Yootubeの場合、収益は次の月の決まった日に振り込まれるわけで、その収益の額自体をこのスキルで使えるんだろうか?

 このチャンネル、紗哩シャーリーが以前はやりの曲の踊ってみたでプチバズして再生数を稼いだことがあるんで収益化自体はできているんだけど。


「まあ、やったことないけど試してみる価値はあるよな」


 そして俺は叫ぶ。


「セット、yootube! 残高オープン!」

[※エラー]


 ダメかー。

 ちょっとは期待したのになあ。


 終わった。


 俺たちの冒険はここで終わりだ。


 使える現金がないってことは俺も無力、MPをほぼ使い切った紗哩シャーリーも無力、あとはモンスターに食い殺されるしかない。


 待てよ、ここで口座番号さらしてリスナーに振り込んでもらおうか?

 でもそれってどこの配信アプリでもBAN対象なんだよな。

 AIが検知して瞬時にBANされるから無理、ってか今俺別にカードもなにも持っていないからさらしたくても口座番号なんて覚えてないし。

 これどうにかならんのか?


「セット、yootube! 残高オープン!」

[※エラー]


「くそ、頼む、通ってくれ! セット、yootube! 残高オープン!」

[※エラー]


「セット、yootube! 残高オープン!」

[※エラー]


「ちっくしょおおおおお!!」


 何度やってもダメ。

 思わずダンジョンの壁をぶっ叩いてしまった。

 これさえ通れば生存ルートに入れるのに。

 くそ、正直俺たち兄妹は死にに来てるからいいけど、この子を助けられないのは悔しい。


紗哩シャーリー、せめてぎりぎりまで俺たちで命を張ってこの子を守ろう。この子が生きていることは地上のみんなにも伝わってるし、もしかしたら救助隊がくるかもしれない。なんとか……」


 すると、美詩歌が息も絶え絶えな感じで言う。


「そんなの、ダメだよ……。私のために命をかけるとか絶対ダメ。みんなで、生きて帰ろうよ……。あとね、私思ったんだけど、Yootubeの収益はYootubeから直接振り込まれるんじゃないの。Yootubeの親会社ってgaagleでしょ? だから、gaagle Adsense経由なんだよ……。だから、そっちを試してみて……?」


 あ、なるほど。

 さすが日本一の配信者、詳しい。


「セット、gaagle Adsense! 残高オープン!」

[ゲンザイノシュウエキ:1,228,432円]


「よっしゃーーーーーーーー!」

「やったーーーーーーーーー!」


 思わず紗哩シャーリーとハイタッチして叫んでしまった。

 日本一の配信者と同行して、そのスパチャが入るとなると……。

 これは、この生還不可の最難関ダンジョンだとしても、俺のスキルで突破できるのでは?

 そして、この美詩歌を連れて帰ることに成功したら、なんか数億円の報奨金がもらえるとか……?

 借金チャラじゃん!


「あのー、お兄ちゃん、あたし、なんか、すごく生きたくなってきた。絶対死にたくないんだけど」


 笑顔でいう妹の顔を見て、俺は力強く頷いて見せた。

 紗哩シャーリーと一緒にまだまだ人生を生きるぞ!

 まずは、この美詩歌を助けたい。

 片足を失い、おそらくは大量に血液も失っている。

 とんでもない痛みもあるだろうし、精神的・体力的にもう限界なはずだ。

 俺のマネーインジェクションで全回復してやれないかな?

 とにかく、どーんと金をつぎ込んでやろう。

 金は命より重いと思ってたけどそんなことないな、その逆だ。


「インジェクターオン! セット! 百万円!」


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