第6話 ヒーロー参上

 なるほど、怒涛どとうのコメントで状況がわかったぞ。

 そっか、あの有名なみっしーがこのダンジョンで遭難しているのか。

 とりあえずPOLOLIVE公式からの情報で彼女の位置はわかった。

 俺たちは死にに来てたんだけど、だからといってほかのだれかが死ぬのを黙ってみるなんて選択肢はない。


 っていうかさ、逆に誰かを救ってから死ぬとか、そっちのがかっこいいよな?

 命の使い所としては悪くない。

 この最難関ダンジョンでその子を救えるかどうかはわからんけど!

 位置情報をもとに、俺たちはそこへ一直線に向かう。

 途中でモンスターに会わなかったのは本当に本当にラッキーだった。

おれたちの実力じゃ、地下8階のモンスター相手に勝てるかどうかめっちゃ怪しかったしなあ。

 俺の残高も、紗哩シャーリーのMPもそんなに残っていないのだ。

 紗哩シャーリーの魔法で位置関係を確認しながら進むと。


 六本足のオオカミのモンスター、フューリーウルフの焼け焦げた死体を見つけた。明らかに雷系の魔法によるものだ。

 一頭、二頭、三頭。

 三頭の死骸。


 そして。


 それを見た瞬間、俺の背中がゾクッと震えた。


 そこに、人間の足が落ちていたのだ。


 三頭目の死骸のかたわらに、明らかに人のものと……いや女性のものとひと目でわかる足が一本、落ちていた。

 左足だった。

 太ももから下のものだ、おそらくフューリーウルフに噛みちぎられたのだろうか?

 断面はぐちゃぐちゃで血にまみれた肉と骨が見える。

 靴は脱げ、ソックスも破けてそこから見えるネイルのピンクが生々しい。


〈あああああえ〉

〈え、これまさか〉

〈いやでもほかにこのダンジョンに潜ってる人いないはずだし〉

〈やめてやめてやめて〉


 コメント欄が悲痛なものであふれる。

 まあそりゃそうか、あまりにもショッキングな絵面だもんな。


 ん? 画面がひび割れたyPhoneが落ちているぞ。

 そんなに古いものではない。

 ついさきほどまで使っていたものかもしれない。


「……お兄ちゃん、探そう。足だけだったら、まだ間に合うかもしんない」


 頭はアホなんだけど、こんなのを見てもキャーキャー騒がないところは、我が妹ながら大したもんだと思う。

 紗哩シャーリーの言う通りで、紗哩シャーリーは治癒系の魔法スキル持ちだ、命さえ無事であれば治癒できる可能性がある。


 暗くてよくわからないが、さらにあたりを探索する。

だが、フューリーウルフの死体の他には何も見つからない


「お兄ちゃん、この足の人……どこにいったのかな……? どこかへ移動したの? それとももうほかのモンスターに全部食べられた……?」


 いや、それならそうと分かる血の跡があるはずだ。ここには血のあとがほかにはない。

 そしてよく見ると足の断面の血は黒く変色して固まっている。

放置されて数時間というところか……。


「お兄ちゃん、この辺にはいないみたいだよ、あっち探す?」

「待て、なにか聞こえないか?」


 二人で耳をすます。

 コンコンコン、コン、コン、コン、コンコンコン。

 コンコンコン、コン、コン、コン、コンコンコン。


 何の音だ?

 壁に耳を当てる。

 壁伝いにその音は伝わってきていた。

 何か固いもので壁を叩いているのだろう。

 そしてこれは。


「お兄ちゃん、気持ち悪いよこの音……」

「いや違う、これ、……モールス信号だ」


 トントントン、ツーツーツー、トントントン。

 そう、これはSOSを表すモールス信号。

 誰かが、どこかで、助けを求めているのだ。

 まさかこの現代にSOSのモールス信号を聞くことになろうとは。

 壁に耳を当て、どこから響いているのかを確認する。

 なるほど、わかった。

 すぐ近くにいる。

 ってか、おそらく目の前にいる。

 でも、俺たちには見えてないだけだ。


「これは不可視化の魔法だ!」


 それもかなり高度なレベルの。

 しかし、この感じだと本人は喋ることもできない状態なのかもしれない。

 急がないと。


「シャーリー、マジカルランタン使ってくれ」

「マジカルランタン? うん、わかった」


 こいつはけっこうなレアアイテムで、しかも一度しか使えないんだが、もちろん人の命には代えられない。

 シャーリーが持っていたマジカルランタンに火をつけると。

 今まで見えなかったものが見えるようになった。


 そこにいたのは、少女。


 俺たちのすぐそばで、息も絶え絶えな、血まみれの少女が、壁にもたれかかっていたのだ。

 黒髪のショートボブ、こんな状況だってのに鳥肌が立つほどきれいな顔をしている。

 いや、むしろこんな状況だからこそ、彼女の美しさが際立って見えているのかもしれないけど。


 右腕は壁にめり込んでいて固定されており、左足が太ももから食いちぎられて骨が見えている。

 その切り口は焼けこげていた。

 おそらくなんらかの魔法で焼いて止血したのだろう。フューリーウルフを焼き殺したのと同じ雷系の魔法だろうか。


 オーバーサイズのカーゴパンツかなにかをはいていたんだろうが、それは太ももを食いちぎられたせいでほとんど破けており、水色のショーツが丸見えになっている。

 彼女は固そうな木製の杖を左手に持っていた。なんらかのマジカルアイテムだろうか。

 それで壁を叩き続けていたのだ。


 顔は血の気が引いて真っ青になっており、唇はカサカサで、一見死んでいるのかと思った。

 その少女は俺と目が合うと、かすかに笑って、何事かを呟いた。

 その声はかすれてほとんど聞き取れなかったが、かろうじて、


「ほーらね、ヒーロー参上だ」


 と言ったように聞こえた。


〈生きてる?〉

〈生きてる!〉

〈みえ〉

〈生存確認!〉

〈やったー!〉

〈パンツ〉

【¥34340】〈ありがとうありがとうありがとう〉

〈でも死にそう〉

〈みっしー!!!〉

〈死ぬな〉

【¥50000】〈みっしー!!!〉

〈潟潟テレビ局です。お話を伺いたいのですがDMをくださいますか〉

〈失せろ〉

【¥50000】〈みっしー生きてて本当にうれしい。早く治してあげてください〉


 そしてあふれるスパチャ。


【¥120】

【¥1000】

【¥50000】

【¥120】

【¥34340】

【¥120】

【¥50000】

【¥50000】

【¥3434】

【¥50000】

【¥50000】

【¥3434】

【¥2000】

【¥120】

【¥50000】

【¥34340】

【¥343】

【¥50000】




:同時接続 98万人




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