第5話

朝、僕はルージュを起こさない様に拘束を解いてベットから這い出る。


ふう、危なかった。

僕の精神力を誰か褒めて欲しいよ。


さあ、お腹も空いたし朝ご飯にしよう。

朝食はバイキングだって言ってたから楽しみだな〜

バイキングってテンション上がるよね。


国内がこんな状況だからあんまり期待はしてなかったんだけどね。

これは想像以上に豪勢だよ。


僕はお皿山盛りに取って席についた。


味も中々にいける。

流石高級ホテルだ。

どんな状況下でも、ある所にはあるってもんだね。


「おはよう少年。

昨日は良く眠れたかい?」

「おはようツバキ。

それはもうぐっすりだったよ。

ぐっすり過ぎて行きそびれちゃった。

てへっ」

「なあに、気にする事は無いよ」

寝る事はいい事さ。

お酒はいつでも飲める」


そう言ってお皿いっぱいのご飯と自前の酒を流し込む。


「そういやミツルギ君は?」

「ミツルギ君かい?

彼なら朝起きたと思ったら大慌てで飛び出して行って、外で素振りを始めたよ。

本当に彼は真面目だね」

「一緒の部屋で寝たの?」

「そりゃあ遅くまで飲んでたからね。

ミツルギ君も相当酔ってたよ。

まあ、ダブルベットだから二人寝ても広々だよ」

「って事は一緒のベットで寝たの?

部屋にベットは一つしか無いからね」


そりゃあミツルギ君が慌てて部屋を飛び出すわけだ。

だって目が覚めたら、こんな色気のあるツバキと同衾だよ。


「もしかして……

ヤっちゃった?」

「ブハハハハハ」


ツバキはとてもおかしそうに大笑いした。


「それミツルギ君も聞いて来たよ。

ヤってしまいましたか?って。

そんな訳無いじゃないか。

いくらミツルギ君が酔ってたって私みたいなのは願い下げだと思うよ」

「そんな事は無いよ。

僕なら速攻だね」

「相変わらず少年は優しいね。

そんなに言うなら今度お相手願おうかな?」

「もちろん、僕はいつでもウェルカムだよ。

今晩あたりワンナイトラブする?」

「ハハハハ。

魅力的な提案だけど、まだ愛弟子に嫌われたく無いよ。

その代わりこれに付き合ってくれないかい?」

「いいよ」


僕が差し出したコップにツバキが酒を流し込む。

僕達は乾杯をして朝食を楽しむ事にした。


「少年はこの後何処かにお出かけするのかい?」

「そうだね。

せっかくだから見て周りたいな」

「そうか。

私はお嬢様方のエスコートの予定だけど一緒に行くかい?」

「いや、女の子だけで行きたい所もあるだろうから遠慮しとくよ」

「ならミツルギ君と行くんだよ」

「はーい」



僕は一人でも良かったんだけどね。

ああ言われた後だと、バッタリ遭遇しちゃうといけないからミツルギ君とジュニアの三人でお出かけする事になった。


僕は特別見たい所がある訳では無いから、ジュニアの行きたい所を一緒に見て周る感じだ。


昨日見た感じだとインフラも整っている印象だったけど、改めて歩いて見て周ると酷い所が見えてくる。


路地裏を覗き込むと、踏み入れた者を堕としてしまう危ない魔物が覗き返して来る。


チャップが勝手に出歩くなって言う理由がわかる。

でも、絶対楽しいよね。

これは行かないと美学に反するね。


一見綺麗な街並みが揃い人々が行き交う表通りもよく見ると、人間と鬼人の間は見えない壁で隔たれているみたいだ。

そして何処か生気が無い。


「つまらない国だろ?」

「確かにつまらないね」


ジュニアの言葉に僕は素直に答えた。


「たかだか種族の違いぐらいでここまで対立するなんてつまらないよね」


種族なんて大した違いじゃないのに、そんなのに拘るなんてバカみたい。


「僕もそう思うよ。

でも、僕は団長に連れ出して貰う前はその考えがおかしいと思ってたんだ」


集団心理ってやつだね。

まあ、その方が楽だしね。


「今改めて見ても違和感しか無いな」

「ジュニアはこの国が嫌いなの?」

「ああ、嫌いさ。

前にも言ったように何もいい思い出の無い国だからな。

そしてこの国はその時と何も変わって無い。

きっと今回も長くは続かない」

「それはやってみないとわからないと思うけどな」


黙って聞いていたミツルギ君が話に入って来た。


ミツルギ君のそう言いたい気持ちは分かる。


だけど僕も無理だと思うな。

人って過去の出来事を切り離して物事を考えられないからね。

積み重なった確執はそう簡単に割り切れるものじゃない。


「もしかしてハクユウ君?」


鬼人の女性が近づいて来てジュニアの顔をじっと見た。


「やっぱりハクユウ君よね。

久しぶりね。

元気にしてた?

すっかり大人になっちゃって。

それはお互い様か」

「ちょい待ち」


矢継ぎ早に喋って来る女性にジュニアはたじろぎながら口を挟む。


「君は誰だ?」

「え?

あっ、ごめんごめん。

10年以上会ってなかったら分からないわよね。

コオリよコオリ。

思い出した?」

「コオリって、あのコオリか?」

「そうよ。

学校一の問題児のコオリよ」


そう言ってコオリはニコッと笑った。

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