第2話

しかし冒険者にはガッカリだったな。

特に報酬は金貨のみってのが一番のマイナスポイントだね。


この世には金貨よりも素晴らしい物が沢山ある。

それを報酬として認めないのは僕の美学に反する。


冒険者になるアテも外れたから買い食いをしよう。


流石王都だ。

屋台の数も種類も半端なく多い。

やけ食いにはもってこいだ。


「しまった。

買いすぎてしまった」


見る物全てが美味しそうだったからついつい買ってしまった。

気付いたら両手いっぱいに抱える程になってしまった。


どうしよう。

食べ切れるかな?

とりあえず落ち着いて座って食べよう。


少し彷徨っていると、噴水のある広場に到着した。


王都の広場は忙しく通り過ぎる人々や、楽しそうに噴水の周りで遊ぶ親子で賑わっていた。


そんな中、噴水前でさっきの女の子が項垂れて座っていた。


「こんにちは」


僕が近づいている事に全く気づいて無かったようで、声をかけるとビクッとして顔を上げた。


「こ、こんにちは。

えーと……

あ!さっきギルドにいた方ですよね。

もしかして依頼を受けてくださるのですか!?」

「ごめんね。

どっちかと言うと僕も門前払いを受けた方なんだ」

「そうですか。

お揃いですね」


彼女は落ち込んでいるはずなのに、それを悟られないように力無く笑った。


「隣いい?」


僕が隣に座ると、彼女のお腹から広場中に聞こえるんじゃないかと思える程大きな音が鳴った。


「ごめんなさい。

村を出てからろくに食べてなくて」

「食べ物ぐらい買えば?」

「恥ずかしながらお金が無くて」

「いっぱい持ってたよね?」

「あれはみんなが託してくれた大切なお金ですので……」

「お金に額面以上の価値を付けたら駄目だよ。

使い所を間違ってしまうから」


彼女は意味がわからないのか、キョトンとしている。


「とりあえずこれどうぞ」


僕はサンドイッチを差し出した。

彼女は首を取れるんじゃないかと思うぐらい横に振る。


「とんでもないです。

頂く訳には……」

「食べ切れそうに無いから、君が食べないと捨てちゃうよ」

「そういう事なら……」


サンドイッチを受け取った彼女は一口食べた瞬間目を輝かせる。

相当美味しかったらしい。

茶髪のてっぺんのアホ毛がピコピコ揺れている。


空腹は最高のスパイスとは良く言った物だ。


次から次へと与えられた物を平らげていく。

なんかリスに餌をあげている気分で楽しい。


「ご馳走様でした。

なんとお礼を言っていいか……」

「いいよ別に、対価貰うし」

「え?」

「タダであげるなんて言ってないよね?」

「それはそうですけど……」


彼女はかなり困ったように項垂れてしまった。

残念だったね。

悪党に目をつけられちゃったね。


「ね、お金に必要以上の価値を見出して出し渋るから後々大変な事になるんだよ。

良かったね。

一つ勉強になった」

「酷いです!」

「他人の食べ物を食い逃げする方がよっぽど酷いよ」

「……わかりました」


そう言って渋々金貨の入った袋を広げた。

予想通りかなりの額が入っている。


これでも足りないって事はA級以上の依頼なんだろう。


「そんなのいらないよ。

僕はこう見えてお金持ちだからね」

「ならどうしろって言うんですか!」


すっかり怒ってしまっている。

アホ毛がピンっと伸びている。


このアホ毛面白いね。

それにしても何を怒ることがあるのだろう?

騙される方が悪いのに。


「君がギルドにした依頼内容教えてよ」

「え?そんな事でいいんですか?」

「そうだよ」


だって気になるじゃん。

あれだけの報酬を出しても断られる程の依頼内容。

僕の好奇心はこれっぽっちの金貨じゃ比べ物にならない。


「私は綺麗な湖の辺りにある小さな村、ナモナイ村の村長の娘のサラと言います。

綺麗な自然以外取り柄の無い小さな村ですが、平和な村でした。

でも、数ヶ月前に急に巨大なワイバーンが近くに巣を作ってしまい村を襲うようになりました」

「じゃあそのワイバーン退治の依頼に来たの?」

「それもあるのですが……

ワイバーンが出てすぐに傭兵団を名乗る人達が追い払ったんです。

だけど、その傭兵団はワイバーンから村を守る代わりに村での衣食住を要求しました。

そして今では我が物顔で歩いています」

「それは当然の権利だね」

「でも、今や彼らは暴徒と化しています。

何をしても村人は誰も逆らえません。

理不尽に殺された者だっています」

「でも、彼らがいなかったらどうせ無くなってた命だよ」

「確かにあなたの言う通りかもしれません。

でも、そのワイバーンが――」

「その傭兵団が使役してたんだろ」

「え?」


僕が言った事が間違い無いと言うのが、彼女の反応からわかる。


「どうしてそれを……」

「ワイバーンが人に村を襲う理由が無いからね。

そんなに自然豊かな場所なら餌は沢山あるだろうし。

それにタイミングが良過ぎる」


一番の決め手は悪党としての勘だけどね。

飴と鞭。

それが支配するのに一番手っ取り早い方法。


「それで君達はワイバーンと、そのならず者の討伐依頼に来たわけだ」


彼女は黙って頷いた。


確かにこれだけややこしい依頼となれば依頼ランクも高くなるな。

でも、村長だって報酬の相場はわかっているはずだ。


なのにそれだけの金貨を持たさなかったと言うことは、初めから彼女が帰ってくる事を望んで無いって事だな。


「でも、断られてしまいました。

どうしてこうなってしまったんでしょうね?」

「君達が騙されるからだよ」

「私達が?」

「そう。

騙される君達が悪いんだ」


彼女の表情が一気に険しくなる。


あれかな?

君達は悪く無いよとでも言って欲しかったのかな?


「なら私達はどうすれば良かったんですか?」

「しっかり自己防衛の方法を準備しておくべきだった。

何かあった時の備えをしておくべきだった。

今は平和だからとずっと平和が続くと思い込んでいた。

君達自身の怠慢が全て招いた結果さ」

「そんなのって……

理不尽過ぎます」

「世の中理不尽な事ばかりだよ。

その理不尽を減らす為にルールがあり、秩序がある。

それによってまた新しい理不尽が生まれる。

決して理不尽は無くならない。

必ず誰かに皺寄せがくる。

それが今回君達だっただけの話」


その理不尽が嫌で僕はルールと秩序を無視する事にした。

だから僕は悪党だ。

悪党だからこそ全て自己責任だ。


「やっぱりあなたは酷い人です」

「そうよ!

あなたは酷いわ!」


突然横から女の子が話に割り込んで来た。

その子は短いおさげを靡かせながら、すぐにサラの両手を取った。


僕は彼女を知っている。

6年前の剣術大会中央区の優勝者。

しかも、毎年激戦が繰り広げられる中央区で全ての試合で秒殺した強者。

アイビー・グランド。


西区の優勝がシンシアじゃなかったら、時の人になっていたのは彼女だったはずだ。


「ごめんね。

盗み聞きしちゃたの。

大変だったんだね。

そんな暴挙間違ってる。

騎士団に相談しましょう」


女の子の提案にサラは首を横にふる。


「駄目なんです。

あいつらのリーダーは、私達の村を管轄している騎士団長と繋がっているのです。

一度相談したのですが、見て見ぬふりでした。

それだけで無く見せしめに村人が数人殺されてしまいました」


なるほど、だからギルドで騎士団は信用出来ないって言ってたのか。

世の中悪い奴は沢山いるね。


「なんですって!

そんなの許せない!

でも、今度は大丈夫よ。

お父様に相談しましょう。

私のお父様は騎士団総長なの」


そう、彼女の父親は王国最強と言われているグラハム・グランド。

全ての騎士団を統括する総長だ。


誠実で正義感が強く、国王からの信頼も厚い。

グランドの家名も国王が与えた。


王国の正義と称されている。

まさに生きる伝説。


僕とは全く正反対の男だ。


あの男が動くなら事態は好転するだろう。

だけど――


「早速行きましょう!」


アイビーがサラを引っ張って行くのを僕は見送る。

さて、僕はどうしようかな?


「何してるの!

早く来なさい!」

「僕も?」

「当たり前でしょ!

ここまで話聞いといて無視出来ないでしょ!」


いや出来るよ。

だって僕には関係無いし。


でも、まだサラに聞きたい事あるしついて行くか。

ついでに慰めてやるか。

どうせ更なる理不尽が彼女を襲う事になるから。

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