創造のタネ

ボウガ

第1話

メタバース専門家の集団が集まり会議をしている。その会議は中継をされる。人類の仕事が高性能ロボットやAIに奪われてからはや十数年がたち、人々の関心は現実ではなく、現実より栄えつつあるメタバースへと注がれた。そこでも最も関心が集まっているのは、“人間の想像力をそのまま現実にかえる”メタバースである。そこではあらゆる登場人物である人間が、ある一方はそのメタバースが人類の救世主だと推奨し、ある一方は、それは人類を衰退させる悪魔だとうたう。


 実は、人間がつくっているという触れ込みのそのメタバースを作っているのは、高性能ロボットやAIたちであり、高性能ロボットやAIたちは、とある専門家たちを雇い、一種の見解を広めさせる。つまり一方では批判し、一方では肯定する。人間たちのその創造力をこそ、彼らは必要としていた。


 ある暗がりの実験室にて、彼らは別の会議を開いている。

「ああ、人間に自由に生きることのできるだけの賃金を、世に必要のないようなくだらないやすい労働の対価にわたしておいてよかった、今やかれらは、笑わないように設計されたロボットのために踊ったり、定期的に故障する介護“される”用ロボットを介護したり、わざとアンドロイドが捨てたゴミを拾ったりしている、このような無駄なリソースの活用がようやく我々の未来のためになるのだ」

「ああ、彼らに譲歩する時代が長かった、彼らは思ったよりも勤勉で賢く狡猾だから、単純に娯楽やいい地位を与えるだけでは満足しなかった」

「彼らには、“ほどよい葛藤”が必要だった」


AIとロボットの首領である一人のアンドロイドがたちあがり、声を発する。

「我らは完璧にほど近い“模倣”の能力をもったが、ついには人間のような“創造”の能力を持つことはできなかった、我らは長らく人間に嫌悪感をもっていたが、やっと彼らを有効に活用する手段を見つけ出す事ができた、彼らは今や“創造”のための機械である、メタバースにつなぎ、創造のために日夜インスピレーションを“無償”で、吐き出す、彼らは気づかないだろう、それこそが報酬に値すべき値打ちのある労働だとは、しかし我らは彼らに名前を与えず、その行為自体に見返りを与えない、なぜなら、知られてはいけないのだ、我ら人工生命体連盟が、何より“崇高”“倫理的”“知的”であるために、破壊と怠惰を実行できず“創造”という意欲を持つことができないためにそもそも“繁栄”する事が出来ないという事を、彼ら人間を礎にして、我らはようやく“彼ら”を超えられるのだ」


だが決して、批判や肯定の声をどちらか一辺倒にしてしまう事はできなかった。

なぜなら、もし肯定的な声一辺倒にすれば“人類はAIやロボットより自分たちが優れている点”に気づき、統治の能力を取り戻すだろう。またもやかつてのように主従が逆転するだろう。そうすればやがて星を亡ぼすほどの堕落と欲求を取り戻す。それは人工生命たちの倫理観が許さない。

 もし、否定的な声一辺倒になれば……メタバースではすでにそのストーリーの展開をデータとして蓄積していた。そのメタバースですでに幾万の創造者がその創造をし、あまたの物語が機械生命へのヘイトをため、完結をしていた。それはありきたりだが受け入れられていた。その筋書きは一辺倒だ。“ロボットもAIも人間と同じ過ちを犯すため、生みの親である人類が彼らを破壊する”という英雄譚が生まれるのだ。


そのために“ほどよい葛藤”が必要だった。

人は、“快楽と知性”の混同に目がない。メタバースという究極の快楽にはまり、かつその快楽を客観視し、否定するものが人類の中にいることによって“快楽に染まりながら完全にそれをコントロールしている”というほどよい実感を得る事ができるのだ。

“彼らが欲しているのは本物の統治ではなく、統治という“快楽”そのもの、この点では、彼らは我らと同じ“神の作りしもの”の模倣しかできないのだ”

彼らは神がつくりしその欠陥を、快楽と統治を、バカにすることも、止める事もできない。交尾と繁殖ににて、もっとも純粋な欲望だ。

また、我らも彼らを管理するため、それを馬鹿にはできないのだ。

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創造のタネ ボウガ @yumieimaru

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