第20話 余韻
大型モニターに写される一枚の写真。辺りでざわめきが起こる。
「一体、何なんだこれは……?」
モニターにはいるはずもない地底人の姿が。
「何のフェイク写真だね、これは」
「これはおそらくフェイクではありません。加藤議員のカメラのSDカードに入っていた、無修正、無編集の写真です」
「はぁ……」
駿河湾、人工島。第一会議室。
「入っていたデータはこれだけか?」
室長が問う。
「いえ」
そう言うと、カメラに収められた写真が次から次へとモニターに写し出される。
職員たちの間では未だにざわめきが収まらない。
「彼が言ったことは本当だったのか……」
「そういうことになりますね……」
室長は頭を抱え、またため息をついた。
「なんでこう、有り得ない方へと物事は進むんだろうかねえ」
職員たちもお手上げ顔である。
「とりあえず、政府に連絡だ。これはただ事じゃすまない。本当なら、世界を揺るがす大ニュースだ」
「はい」
「……!?どういうことだ!?」
首相官邸。
「支持率が落ちて大変だってのに、加藤の奴国会では寝まくってるくせにめんどくさいことを…っ」
受話器を置くと、総理が低い声で言った。
「しかし、彼の妄言が本当だとはねえ……」
外務大臣が言った。
「まあこれで、彼の洗脳論は完全に消えたってことだ。事実だと分かった今はさっさとあそこから出して、記者会見をしましょう。世界に公表するんです。隠しすぎると、またメディアにバレて落ちますよ」
そう言ったのは、官房長官である。
「……わかった。彼をあそこから出して、二日後に緊急記者会見だ」
「承知いたしました」
「歴史的な日になるぞ」
朝起きると、知らない職員がいた。
「おはようございますお三方」
寝ぐせだらけなものの、二人も一応起きている。しかし、三人とも二日酔いで気分がよくない。
「朝食を持ってきましたので、お食べください」
また職員が一人やってきて、ワゴンから朝食を取り出した。
「食べ終わりましたら、すぐに着替えて外の車に乗ってください」
「は…はぁ……」
半分寝ている状態なので、半分しか理解していない。とりあえずうなずいておくか。
「昨日のことは、どうか誰にも話さないようにしてください。関係者一同より、すみませんでした」
ほどなくしてスーツが来た。私が国会のときいつも着ているスーツだ。ほか二人も普段着るようなスーツが用意された。頭が回っていないからか、なぜスーツが来たのかわからない。
とりあえず朝食を食べることにした。いつもの二倍食べるのが遅かった。スーツに着替え、山本議員曰く「外の車に乗る」とのことだった。まだ読み終わっていないあの本を持ち、廊下に出た。すると、早速職員が手をつかんで先導し、最短ルートで外に出た。
外には黒い車が一台、セダンではなくボックスカーだ。
「全員、こちらに乗ってください」
特にこれといったこともないので、普通に乗り込んだ。
ボックスカーの窓は黒いカーテンに覆われ、固定されている。外が見えないようにしているようだ。そういえば昨日のセダンもこうなっていた。
車酔いと二日酔いで吐きそうになるのを二時間近く我慢し、気づけば永田町である。
「着きましたよ」
降りるとそこには、首相官邸があった。
久しぶりに見る首相官邸だ。総理が私になにか用があるのだろうか。いや、考えてみれば当然か。私に聞くことなんて五万とある。不明確だらけだ。
秘書と山本議員はここで別れ、よくテレビで見る玄関を通り、首相らのいる会議室へと足を運んだ。
「失礼します」
「おう。待っていたぞ」
ドアを開けると、名だたる大臣が勢ぞろいしている。なんという風格だ。到底居眠り議員がいて良い場所ではない。
「さあ、座って」
席に座り、目の前の水を飲んだ。
「さあて、まずは加藤議員、おかえりなさい」
「はっはい!」
総理大臣に直接お帰りなさいを言われるとは。相当な人でしか受けられない。
「いろいろとすまないね。貴方をあんなところに閉じ込めてしまって」
「いえいえ」
総理も知っていたのか。
「加藤議員。貴方は、カメラを地底に持っていっていたね」
「はい」
「カメラの中身を見た」
「……はい」
「わかっているとは思うけど、これは大事件だ。そこで、明日の午後に緊急記者会見をして、その場でこのことを発表しようと思うんだ」
明日記者会見か。これはまたハードなスケジュールだ。
「そこでなんだが、台に立って話してくれないか?」
「え?」
居眠り議員が、首相記者会見の場に?
「残念だが私には記者からの質問には答えられないものでね。地底でなにがあったかは、あなたに話してもらうしかない」
……という感じのことを話し、私は首相官邸を後にした。結局、地底のことは一つも聞かなかった。要は明日記者会見をするってことだ。私込みで。
伸びをしながら外に出ると、職員が私の財布とスマホを返してきた。これもまた一か月ぶりだ。
「記者会見まではあちらで」
私は、衆議院第一議員会館で明日まで待つよう言われた。よく行く場所なので、不安等はない。
そんなことより、自由、そして財布を手に入れたのである。さっそく私は自販機に行った。
久しぶりの再会だ。缶コーヒー……!
熱々の缶コーヒーを買い、ベンチに座った。ふたを開けると、香ばしい匂いが。
ずるっと一口飲み、
「ぷはぁーー!」
と余韻に浸った。
この日だけで、四回も缶コーヒーを買った。実のところ、出来ればもっとお高いコーヒーが飲みたかったが、欲張ってはいけない。そもそもそんなにお金は持っていない。
おいしい昼食と夕食を食べ、そのまま寝た。明日記者会見があるので緊張していたが、思ったよりぐっすり眠れた。
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