第18話 地上
エレベーターのドアが開き、施設のエントランスが見える。透き通ったガラス窓からは、太陽の光がこうこうと降ってくる。
シートベルトを外し、若干ふらつきながらエレベーターから出た。鉄骨丸出しだった前の姿とは打って変わって、重いものを運ぶためのベルトコンベアが床に直接ついていること以外はまさに最新の研究施設だ。そこらじゅうが真っ白だ。何てモダンなんだろうか。
「加藤さん」
早速黒服たちに囲われた。前回もこんなだったような。
「さあ、早く連絡船へ行きましょう」
もう少しこの施設を眺めてみたかったが、まあやむを得ないことだ。
黒服に囲われたまま、施設の外へ出た。外はより一層太陽がまぶしく輝いている。黒服であまり周りが見えないが、隙間からは懐かしい地上の風景が写っている。青い海、そびえ立つ山。息を吸うと、地底とは違った潮の香り。カモメのなく音。海の波の音。地上に帰ってきたんだな。
桟橋の先には、小さなボートが。あれに乗るんだろう。隣の桟橋には巨大な連絡船があり、物資や重機を降ろしたり積んだりしている。
「乗ってください」
私はボートに飛び乗り、屋根のない船尾の開けたところで海を眺めることにした。私に続き、黒服が一人ずつ飛び乗る。
……?
何か音がする。風がどこからか吹いてくる。これは……
振り返ると、一機のヘリコプターが、こっちに向かって来ている。かなり低空飛行だ。ヘリにはテレビ局のマークがある。
「船室に!」
黒服二人が私を強引に船室に押し込んだ。まもなくヘリが頭上を通過する。
「テレビ局の奴らが来るなんて聞いてないぞ?」
「きっとほとんどアポなしで来たんだ」
「ヘリなのにか?」
「ああ。あそこのヘリポートはたいてい空だ」
黒服たちが息を荒げながら話す。
「出発して大丈夫ですかな?」
船長が黒服に言った。
「大丈夫です。早いとこ出ましょう」
「了解。よしいくぞっ」
二人目の黒服が乗ると船は出航し、ヘリは施設にあるヘリポートに豪快に降りた。桟橋には残る五人の黒服たちが。手を振ることなく、何もなかったかのように施設に帰っていった。
進むにつれ、遠くに見えた海岸もみるみるうちに大きくなってきた。船は水しぶきを上げ、エンジン音をとどろかせながら力強く進む。まだ腕の筋肉痛は治っていない。
海岸に、何か橋のようなものが造られ始めていた。人工島とを結ぶ橋だろう。
しばらくして海岸沿いの人気のない桟橋に降ろされた。周りには湾岸道路と怪しい黒いセダン以外何もない。一人だけ黒服が降り、もう一人は船室で隠れるように座ってそのままだ。
「次はあれに乗ります」
黒いセダンに乗った。政府御用達のセダンだ。窓は黒いカーテンでおおわれている。ただでさえこんな車なのに、黒服と相乗りのため緊張感がある。それでも睡魔には勝てず、寝てしまった。
「……うさん」
「……とうさん!」
「加藤さん!」
黒服に起こされ、車から降ろされた。目の前には何かの建物がある。少し古臭く、三階建てだ。洋館に近いだろう。黒服と施設から出てきた案内係に連れられ、私は目をこすりながらよくわからない施設に入った。
中は少し暗めで、木造な部分もありレトロな雰囲気がある。何故だか落ち着く空間だ。だが病院といった感じはしない。
「こっちですよ」
案内係の人が先導し、私は二階の個室に入った。中も玄関と変わらず木の温かみを感じる作りだ。二十畳ほどの広さで、ベッド、机といす、本棚がある。どれもこれも木製で、古めかしい。
「そこでお待ちください」
私はベッドに寝転がり、そばの窓から外を眺めた。周りはすべて森だ。相当な山奥にでも連れてこられたのだろう。カーテン越しに心地よい風がなびく。
……一体ここはどこなんだろう……?
……ラックは助かったのかな……?
考えたって特に答えは思い浮かばない。再び眠くなったので、そのまま寝た。
起きると、もう外は暗くなっていた。鈴虫の音がする。さっきと同じく部屋には私一人しかいない。立ち上がって手当たり次第に照明を探し、苦労の末スイッチを見つけた。月明かりがなかったらきっと見つからなかっただろう。というか、なぜこれほどまでに放置されているのだろうか。部屋に一人か二人いてもいいじゃないか。睡眠の邪魔にはなるまいし。第一私が逃げ出したり何かあったらどうする。見ていませんでしたでは済まない。
「ふぅーっ」
ベッドに横になった。特にやることもない。普段ならスマホでもいじっているが、今はスマホすら持っていない。何かないか周りを見渡す。
…あっ
本棚があった。本でも読もう。
早速本棚に行き、何か面白そうな本を探した。古本ばかりで、全部渋い雰囲気がする。適当に“インザストーリー”という本を取り出し、ほこりを払って読むことにした。
見た感じ小説のようだ。三百ページ近くあり、周りとは違い何故か新品だ。
……なかなか面白い。
内容は異世界物のようで、最初のページしかまだ読んでいないが文章が独特だ。
“この世界は、とある物によって支配されていた。しかし、その事を知っている人は少なかった。”
面白い文だ。一番最初がこんな文章で始まるなんて、これからの展開が気になる。きっと何かの伏線に違いない。
「加藤さんっ!」
突然ドアからノックの音がしたかと思うと、聞きなれた声がドアの向こうから聞こえてきた。読んでいるページに布団の一部を挟み、しおり代わりにした。
「入っていいよ」
ドアがゆっくり開き、秘書の米浦あかりが恐る恐る入ってきた。
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