第4話 アンダーワールド

再び機械音がし、ドアが重々しく開く。白い煙とともに現れたのは、白色の部屋だった。

「着きました。ここが日本で一番深いところです」

流石にエレベーターから出たらすぐ外というわけではなかった。本日二度目の“白い部屋”だ。

「疲れたことでしょう。私も最初は吐きまくりでしたよ。どうです?そこの席でゆっくりしたらどうですか?」

「“特産品”でも堪能しながら」

……特産品?こんな所で何が作れるっていうんだ。

まさか何か、実験用の植物や得体の知れない物体でも作ってて、食べさせられるのでは……

「塩ですよ。出来立てほやほやの」

よかった。さっきのエレベーターのせいか、不信感が増大していた。ただの考えすぎだ。

しかし、なぜ塩が地底にあるのだろうか。

「地底は高熱です。数百度ありますからね。そこで、原子炉と全く同じ方法で冷却します」

「大量の海水をそこらじゅうのパイプに流し込み海と循環させるのです。そして、ここでは飲み水は蒸発させた海水をろ過したものを使っています。発電にも……」

私には原子炉の冷却云々はわからない。どうやら発電や飲み水の確保のときに塩がとれるようだ。まあ、海水を蒸発させれば塩ができる。そういうことなのだろう。地上にあった大量の煙突はその水蒸気を地底から持ってくる役割があるようだ。

全く、難しい人ばかりだ。


研究所内は気圧、温度調整がされているそうなのでヘルメットを脱ぎ、“特産品”使用の塩おにぎりを食べた。特に地上のものと変わらない味だった。製法がほとんど地上のそれと同じだからだろう。

でも、朝ごはんぶりの米はおいしく感じた。

疲れ果てたので病床のような何かで二十分ほど横になって寝ることにした。ガイドがこの研究所の冷却システムや気圧調整システムについてべらべらと喋っている。こういうのを話すのが好きなんだろう。

おかげですぐに寝ることができた。

秘書さんも聞いてるふりをして寝ている。


「さて、一休みしたことだし行ってみますかっ」

突然目の前にガイドの顔が現れた。

「はっはい!」

二人は腰を上げ、頑丈なゲートへと向かった。寝たおかげで吐き気も体力ももう大丈夫だ。


「ふぅーーっ」

目をつぶって深呼吸した。扉の先ではどんな世界が待っているのだろうか。

知らない間に、感情は逆転していた。

どんな出会いがあるのだろうか。知らない世界への興味と興奮。この感覚は、小学生以来だ。

「政治家で地底に降り立つのはあなた方が最初ですよ」

重いドアが開く。

白い煙が辺りを立ち込める。

最初の一歩を踏み出す。


ようこそ、アンダーワールドへ。

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