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「神谷さん……あの、もしかしてなんですけど、この記事って……」
期待していた分、予想通りにいかなかった時の喪失感は大きい。だから期待なんてなるべく抱かないようにする。
そうやって生きてきた筈だ。
もしかしたら、は和輝の経験上、そうならない事が多い。
だからこれは、そう、念の為の確認事項だ。『もしかしてまだ隠されたリンク先が有ったりするのか?』などと望み薄な希望を砕く為の。自分の気持ちを突然の喪失感で虚無にしない為の。
「えぇ、これで全部ね」
「病院に森崎の情報が有ったりとかは……?」
「無いけど……カルテか何かって事かしら? でも、あの病院は閉鎖されてたし……閉院したのが正式な手続きを踏んでいたのなら、中にそんな個人情報を置いているとは思えないわ」
それもそうか、と和輝の諦めは深まった。
廃病院に雑に放置されている患者のカルテ。ホラーの探索では定番だが、現実的に放置したままというのは考え難い。閉院した理由にもよるが、信用を更に地に落とす事になりかねない。というか現代でそんな事をしたら、何かしらの法律的にもマズイだろう。
「……医療ミスの中に森崎の事が書かれてたりは?」
「そもそも、医療ミス自体が噂話。それで誰かが亡くなったりとか、そういう人の名前なんて何処にも載ってなかったの」
つまり。
「夏樹ちゃんの事に関しては、手詰まりって事か」
そういう事だ。
優弥はトドメを刺した後に、頭を掻いて難しい顔をしている。
調べた、というのは飽くまで病院と墓地についての事だった。
相も変わらず、夏樹に関しては彼女の名前しか判明していない。いや、一応謎の歌という取り扱いの難しい情報は増えたが。
「で、でも夏樹ちゃんとは喋れるから、本人に色々聞けば良いしさ!」
励まそうとしてくれているのだろう。舞は取って付けるように、思ったままの事をそのまま口にした様だった。
そんなに気軽には考えられない。憑りつかれた未来が全然見えて来ないからだ。
別に夏樹が存在するのは良い。それは全く構わない。だが自分の身体に憑りつかれたとなれば話が変わってくる。
眉間を指で押さえていた和輝は、徐に顔を上げて舞を見た。
「……例えば?」
「好きな物とか、趣味とかさ!」
「お見合いか?」
「身長とか測って記録しとくのはどうよ和輝ちゃん」
「健康診断か?」
「じゃあ、中央病院が良いな。俺の知り合いが居る」
「行かないぞ?」
「取りあえず、夏樹ちゃんの入居届を……」
「出しません!」
和輝の口から、ここ一週間で一番盛大な溜め息が出た。
皆、真剣に考えてくれているのか、そうじゃないのか。
「でも、病院についてだってまだまだ調べられる部分は有るからね。そう落ち込まないで、相田君」
「だけど……それまで一生このままでしょう?」
最悪、和輝が寿命を迎えるまで二人で一つ。なんて事も考えてしまう。
和輝はまだ十八歳。残りの人生の半径五百メートル以内にずっと夏樹が付いているのか?
前途多難過ぎる。想像しただけで胃がどうにかなりそうだ。
そんな事を思いながら和輝は自分の腹部を擦る辺り、もう遅かったかもしれない。
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