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 頭の中がぐるぐると猛回転した。

 男二人にパスを回して頼ろうかとも考えたが、瞬は当てに出来ないし優弥も動物全般が逃げて行きそうな無表情で黙って見ている。

「諦めろ、和輝」

 低い声が突然隣で唸った。

 一呼吸間を置き、同じトーンで優弥が和輝を見る。

「ここまで来たら行くしかないだろう。あと俺も行く事にした。先輩が行くのにお前は来ない気か? ん?」

 やや脅迫めいてはいたが、和輝に取ってはまさに天の声である。

 持つべき者は友と言うか、先輩と言うか。

 優弥には、後でいつも好んで飲んでいる高めのココアでも買ってあげたい気分だ。

「えっ、優弥も行くなんて珍しいな……」

 と出来る限り驚いたように言ってみせる。

 わざとらしく思われてなければ良いが。

 優弥がすぐに賛同するのは本当に珍しいが、面倒臭がりな彼の事だから途中で「おっと、バイト先から電話が……」なんて言って抜け出すに違いない。

「ねぇ、行きましょうよ」

 とどめに澄んだ声の一押しもあって、和輝はこのタイミングだと言わんばかりに首を縦に動かした。

「わかったよ、俺も行く」

 その言葉にポニーテールの女性は満足気に頷いた。

「オッケー。で、話の続きなんだけれど、今夜家が空いてる人はいるのかしら?」

 わざわざ言ってくるのだから、きっと彼女達の家は含まれないのだろう。

 必然的に男性三人が顔を見合わせる。

 この中で大学から一番近いのが瞬、次いで優弥。

 和輝の家も距離にすると優弥と同じくらいだが、二人とは真逆の方向だ。

「ここから一番近いなら……瞬かな」

 いつもは家に行こうとするとあからさまに嫌な顔をして拒否されるのだが、今日ばかりは瞬も快く承諾した。

「オッケーオッケー! 俺んち一人暮らしだから上がりたい放題!」

 なら俺達の時も上げてくれよ。

 とは思うが口には出さない。

 そんな事を一々言っていたら休み時間の間に話が終わらない。

「ところで見せたい物って何?」

 何の気なしに訊いてみると、ポニーテールの後ろに小柄な体躯が軽快なステップで回り込む。

「ひ、み、つ、だよ! 行く場所もその時まで秘密、って事で!」

 少女は無邪気に笑う。

 場所を言ってくれないのは疑問だったが、まぁ後で瞬にでも訊けば良いか、と特に追及はしなかった。

「……あ、ヤバ! まひろ、時間だ。行こう!」

 少女の言葉に全員が食堂の掛け時計を見る。

 十二時五十分……。

「っと、俺もそろそろ行かないとな。じゃあな」

 言うが早いか、優弥は百八十度向きを変えると、途中に設置してあるゴミ箱にコンビニ袋を投げ捨てて食堂を出て行く。

 次に出たのが何故か、一番先に時間に気付いた小柄な少女と、まひろと呼ばれたポニーテールの女性になってしまった。

 食堂を見ると、あれだけ座っていた生徒達がもうまばらにしか居ない。

「瞬、俺達も行こう」

 声を掛けた相田は気付く。

 瞬だけ、時計と真逆の方向を向いて棒立ちしている。

「和輝、俺……」

「おい間に合わないぞ!」

 一拍置いて、瞬がゆっくりとこちらを向いた。

「部屋、掃除しに帰るわ……」

 セット仕立ての後頭部に、無言で手の平が振り下ろされた。

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