勇者が死んだ!大往生!

夏伐

第1話 血の革命……?

 勇者が死んだ。

 異世界からやってきて、世界を蝕む呪いを生んでいた邪神を祓い清め――そして嫁にしたのはつい百年ほど前のことだ。

 圧倒的力を持ち、帝国の姫の婿になった。


 その勇者がエマの祖父だ。


 勇者の偉業はすさまじく、身分の差を無くし貴族文化をぶち壊したのは序の口で、巨大帝国の王となった後は外交で国同士の大きな争いを無くしてしまった。


 エマはその祖父の持つ強大な力の一片を受け継いでいる。

 勇者の力はその子孫に受け継がれていく、というのが勇者を研究していた魔術師たちの見解だ。

 貴族が特権階級として囲い続けてきた魔法の力と同じようなものだ。


 勇者が生きていた頃は政略結婚ではなく恋愛結婚を推奨していた。

 だが、死んでしまった今はどうだろうか。


 エマは招待状を手にそんなことを考えていた。メイドが必死にドレスを選び髪や化粧を整える。

 送り主は、勇者の数多い側室のうちで唯一現在も存命である元邪神のリリスだ。元は神であるからか、今も当時のまま美しい容姿を保っている恐ろしい人だ。


「リリスさまに招待された方を知ってる?」


 エマは近くにいたメイドたちに尋ねた。


「勇者さまの血縁の方はみなさま招待されていると聞きました」

「それは、みんな知ってることなの?」

「今回のお茶会に関しては、お招きされた方の誰一人として欠けることのないように、とリリスさまから使用人全てに通達がなされています」


 は~、なんて憂鬱なんだろう。


 歴史書ではこうして一か所に集められた王族が皆殺しされて王家の血筋が途切れて有力貴族が王位を継いだ血の革命があったとか、そういう話もあった。


 愛していた男がいなくなり、神リリスをこの地に縛る理由もなくなったと言える。


「エマさま、準備が整いました」


 メイドにそう声を掛けられ、恐ろしいお茶会へと足を進めることになった。


 リリスに勇者との子は一人。その子に王位を継がせるために、他の勇者の血筋を絶やそうとしているのでは……?

 心臓が跳ねる。メイドたちに心配されないよう、エマは深く息を吸った。


 正直なところ、エマよりもこのメイドたちの方が貴族としての地位は高い。エマの母は準男爵であった父と大恋愛の末、みんなに祝福され結婚した。時代が時代なら良くて父は暗殺されていたかもしれない。


 これがきっかけだったのか、政略結婚って古いよね、という認識が広まってしまい、各地で『真実の愛』騒ぎが起きてしまった。

 エマの家族を逆恨みしている人間は少なくない。


 こんなタイミングでの『お茶会』。

 絶対に殺されるに決まってるよ~! エマは泣きそうになりつつも、必死にこらえた。メイドがノックをして、扉がゆっくりと開かれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る