第35話 ハロウィンスクール
この日は10月31日で、日本は平和にハロウィンを、それはもう楽しんでいた。
で、他国はそれを知り、くっそブチギレていた。
世界は魔獣に厄災とそれどころではなく、呑気に仮装して戯れている光景が、憎たらしくて堪らない。そんな余裕があるなら、
国民感情しかり、各国の政府や軍部にも日本政府が煽っているようにしか見えなかった。怒りのあまり、ミサイルを日本に撃ち込んでやろうかと、本気で会議する国もある。
そして、絶賛世界から孤立キャンペーンを開催している日本は、大声で『日本政府は何も知らないんだ!
完全に制御も予測も不能。ネズミ花火のように跳ね回る少女を外交カードにできるはずもない。もう、誠心誠意に真実を訴えるしかない。
なお、その真実は海外からは挑発行為と受け止められれていた。
そんな外交ズタボロの日本政府が、自粛を呼びかけるも、仮装とコスプレでテンションのブチ上がった若者が聞くはずもなく、ハロウィンを満喫していた。
とある沿岸部に佇む小学校でも、子供たちが仮装をして登校するはしゃぎぶりである。
ハロウィンにレク活動と、年に数度とない、ご褒美であり、ボーナスステージである。午前中に2時間ほど授業をこなせば、ハロウィンパーティの始まりだ。
「じゃあ、この問題がわかる人いますか?」
秋山
彼女はかつて、離島で教育実習中、厄災に巻き込まれた過去を持つ。
大学卒業と同時に臨時的に採用され、地元の小学校で、3年B組の担任として教鞭を振るっていた。
この学校で行われるハロウィンパーティは、学芸会の側面を持つ。この時間も学活というていでハロウィンの準備をすすめる計画だ。
「それでは皆さん。次の時間から、いよいよハロウィンパーティです。この時間、何をするか答えきれる人はいますか?」
「はい。出し物である合唱の最終確認をします。その後、男女に別れて衣装合わせをして、各自で体育館に集合し、出し物の準備をします」
「その通りです。よく覚えていましたね…っ!? …あの……あなた、誰ですか?」
「
病欠で空いた席に、しれっと知らない子供が座っており、彼女の計画は崩壊した。
「その娘、1時間目の音楽の授業からいたよー」
「音楽の先生気づかなかったから、一緒に合唱の練習してたの」
「マジ笑ったわー」
「え〜…と、別の学年の子?」
見たところ、9歳ぐらいに見えるが、こんな日本人離れした美人さん、学校に在籍していない。いたら知らないにしても、職員間で話題になるはずだ。
「楽しそうなので混ざりました。給食も食べたいです」
「は、はぁ…なるほど」
混ざっちゃったらしい。そして給食も食べたいという。
どうしよう。稀に見る自由人だ。1人で対応できる気がまるでしない。
「小春先生、どうしたんですか? 困り事なら相談にのりますよ」
「ええ、問題よ」
「何がです?」
「貴女が」
「それはおかしいです。僕は日本政府の
もう無理ぃ、話が通じないよぉ。管理職に丸投げするぅ。
「……皆さん、計画通り合唱の打ち合わせをして下さい。えっと…プラナさん?」
「はい、
「あなたについて確認したい事があるから、職員室まで来てくれませんか?」
「了解しました。何か行き違いがあるようです」
特に抵抗もせずに席を立ちついてくる。とても礼儀正しい。だが、やっている事はメチャクチャである。今話題の
「じゃあまたねプラナちゃん!」
「ハロウィンパーティ、ぜってぇ参加しろよな!」
「出し物で合唱もするんだよ。一緒に歌おうね!」
児童はクラスに迷い込んだ、妖精みたいな少女と仲良くなっていた。子供ってすごいね。初対面ですぐ友達になれるんだから。
少女は無表情でVサインを返すと、児童はコンサート会場のように沸き立った。
アイドルかよ。
⭐︎⭐︎⭐︎
結論から言うと、少女この学校の児童ではなかった。もちろんアイドルでもなかった。正体不明の謎少女である。
まず、本名を名乗らない。
根気強く尋ねても、
学校に登校する事が夢だったと語り、給食も食べた事がないので、楽しみだと食べる前提で話をしていた。
理解に苦しむ言動を繰り返す児童は結構いる。だが、この少女はあまりに情報が少ない。
何処から来たのかも、そもそも日本人なのかすら疑わしい。こちらの常識が全く通用しなのだ。
ただ確実に言えるのは、彼女は
あの離島で出会った
つまり、
「それで、僕は何か準備が必要でしょうか? 合唱は覚えましたし、仮装も今着ている服で問題ないと教えてもらいました」
しかも、ハロウィンパーティに参加する気満々なのだ。自分が摘み出されるなど、微塵も考えていない。
少女を警察に引き渡すのは簡単だ。
ただ、教育者としてだ。
無表情ながら瞳を輝かし、ハロウィンパーティのプログラム表を見つめる少女がここにいる。
この少女を引きずり出す事が正しいとは、どうしても思えなかった。
教頭、校長を交えた臨時の職員会議の末。
『警察に連絡は入れるが、放課後までは学校で体験入学として保護し、ハロウィンパーティを体験させる』という結論に至った。
「……と言うわけで、
プラナ参戦の宣言にクラスからワッと歓声が上がる。
「やったープラナちゃん!」
「ハロウィンパーティは体育館でやるんだよ。案内するね!」
児童に取り囲まれもみくちゃにされている少女は表情こそ変わらないが、至福に緩んでいるように見えた。
そうして始まったハロウィンパーティ午前の部では、各クラスによる出し物で、合唱や劇、ダンスなどが披露される。
プラナが体験入学した3年B組の出番も近づいてきた。
『……そして、かわいそうなサイは檻をぶち壊し、森へと帰って行きました。めでたしめでたし』
低学年による、独特な世界観のお遊戯が終わり、いよいよ出番となる。
初めからそこにいましたと言わんばかりに、プラナは何食わぬ顔で、児童に混ざり壇上に上がる。みんなが仮装しているためか、特大の異物混入に違和感はない。
そして始まった合唱は、
「うっそ…うちのクラス、合唱うますぎ」
完璧だった。
1度しか練習していないはずのプラナは、調和を乱すことなく、周りに溶け込んでいた。
それだけではない。
プラナが放つ無自覚なルンルン気分に、クラス全体が自然と気分が高揚し、普段よりも声がよく出ていた。
前日まで合唱だりぃとダラダラやる気のなかったクラスとは別物である。みんなで肩を組んで、ノリノリで身体を揺らして歌っている。最早、誰なんだよお前らは、と叫びたい。
時間にして数分の合唱は、盛大な拍手を送られながら幕を下ろした。
「やったねプラナちゃん!」
「大成功だよ!」
「やべぇ、今まで1番うまく歌えたかも」
舞台裏ではキャッキャと戯れながらハイタッチをして喜びを分かち合っている。完全にクラスに溶け込む謎の少女、
高学年の出し物を午後に控え、給食の時間である。
エプロンにマスク、三角巾を着用し、
「「「いただきまーす」」」
今日はハロウィン特別メニュー。パンにカボチャスープ、カボチャコロッケ、そしてカップケーキがオヤツについてくる豪華仕様だ。
涙が溢れんばかりに瞳を輝かせる少女は、ペロリと綺麗に完食した。
「ご馳走様でした」
堂に入った手を合わせる仕草に、思わず見惚れてしまう。生命を慈しむ真摯な祈りに、神聖で犯し難い聖域を幻視しする。視線が釘付けにされ、動けない中、少女がゆっくりを顔をあげる。
「小春先生、みんなさん、今日はありがとうございました。こんなに楽しかったのは、本当に久々なんです。だから……」
少女が立ち上がり虚空から
「この
廊下側の扉を突き破り、大人の身の丈を超える獣が瓦礫と共に雪崩れ込んできた。
「きゃあああああぁぁぁ!」
甲高い悲鳴を引き金に、教室は騒然となる。
「落ち着いて下さい。僕は日本政府より派遣された
少女は胸に輝く白銀のエンブレムを晒し、巨大な獣の前に立ちはだかる。
「これより、
宣告と同時に、発砲音と光の弾丸が放たれる。襲い来る獣の牙や爪をかわし、懐に潜り込む。流れるように銃弾を数発撃ち込み、絶命させる。
どうやら獣との戦闘が終わったらしい。
一瞬の事で状況が飲み込まない中、少女は1人の児童を庇うように跳躍し、何かを握り潰した。
「見えていますよ。僕が誤射で、子供を撃ち殺した事にしたいんですよね?」
少女が手を開くと、ひしゃげた数発の弾丸が床に落ち、チャラチャラと金属音を響かせる。
「軽傷者すら出させません。この
少女は壁めがけて拳銃を乱射する。
何か重たい金属が落ちる音が、廊下の向こうから聞こえた。
少女が廊下を隔てる壁を蹴破ると、そこにはドローンが1機転がっている。サイレンサー銃を搭載した軍用のドローンだった。
つまり、この襲撃が人為的である事を意味していた。
少女はそれを足で踏み潰し、完全に無力化させる。そのまま左右の安全を確認し、近づく足音に目を向ける。
その表情は異質だった。形容し難く、湿度のあるしっとりとした視線を微動だにせず、その人物に送り続けていた。
「クズハさん。そっちはどうでしたか?」
「こっちの鎮圧も終わりました! 軍人さんが4名ほどです。海岸に接岸していたボードも回収しました」
視線の先から花飾りをつけた少女が、陽気な声で現れた。植物のツタで簀巻きにされた大人を4人引きずっての登場である。
「殺してないですよね?」
「まあ、死んでませんよ。『クズハちゃんネル』にゲスト出演させて社会的に殺しましたけど」
プレイヤーしか所有を許されない
それはNPCの位置と大まかなな情報を
ここで言う情報とは、名前や住所、所属など、性格や生い立ちを除く殆ど全てである。
そして、最悪なことに配信ができる。世界に向けて最高にロックなライブを配信できちゃうのだ。
魔法という謎パワーで、4人の個人情報が拡散されたのである。ついでに密入国の手引きをした日本人の情報も大公開。そのリストには日本の政治家も、当然のように名を連ねていた。
『何でお前がそこにおるんねん』『清々しい売国で草』『もう終わりだよ。この国は』『¥10.000 少ないですがお納め下さい。活動応援してます』
「あ、カイヌイさん、スパチャありがとうございまぁす」
クズハが何故、こんな配信をしてるのか。
金である。
悪を断罪しようとか全く考えていない。配信をすると何故かお金が貰える。そんな浅く、俗物な思想で配信をしていた。最悪である。
「そういば先生、飛んできているミサイルどうします?」
「ああ、撃っちゃいましたかぁ。今回は使わないよう立ち回ったけど、ダメでしたね。……はぁ、しょうがないですね」
プラナは
「聖女兵装
この
ハロウィンパーティに向けた音楽の合唱練習。
先生が知らない児童を、教室に入れたドッキリ作戦。
そして、大成功を納めた合唱。
この日の思い出から、
そうして、
「そのミサイル、そのままお返ししますよ」
⭐︎⭐︎⭐︎
「ど、どうなっている! 何処から情報が漏れた!?」
今回の襲撃を計画、実行した国は大いに慌てていた。
計画では国内で何とか拘束した魔獣を日本に解き放ち、
安っぽい個人の動画配信サイトで、拡散された情報は国家機密である。あんな雑に公開されていいものでは断じてない。国家間の外交や交渉、他国の情勢を考慮し、秘密裏に処理すべきである。
子供がゲーム感覚で取り扱ってはいけない劇薬なのだ。
結果、追い詰められ、混乱の最中、トチ狂った軍上層部と政治家の暴走で、ミサイルが放たれた。
「何故、ミサイルが戻って来るんだよ!」
結果、
お帰りと迎え入れる準備など、もちろんしていない。迎撃もできず、ミサイルは軍事施設に着弾した。
幸いな事に起爆する事なく、人的被害は怪我人が数名で、死者はいなかった。
後に、
『お疲れ様です。ミサイルを送り返した、
軍部のトップとも言える人物に電話がかかってきた。個人の携帯であり、着信画面には登録もしていないのに、
今日は10月31日。
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20241031
突発的にイベントに合わせた書いた短編です。
特にストーリに関わるものでもないので、お気軽にお読みできたなら幸いです。投稿時にはハロウィンも終了間近ですが、皆様がハロウィンのついでに、楽しめてくれれば幸いです。
それでは、また不定期に更新して行く事になります。次回は異世界の話を描きたいなあーと考えております。それでは、よいハロウィンを。
追伸
ハロウィンのイラストを本日ノートに公開しております。良ければご覧になってくれると嬉しいです。
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