第33話 ラストバトル04

『トルネンノイトを討伐を確認しました。任務クエスト達成クリアです』


 通知メッセージと同時に経験値として魔力が流れ込んでくる。


「ぐああああわぁぁぁ!! 身体がぁぁぁ! 魔力が私の中で暴れ回ってるぅぅぅ!! 頭がパーンてなるうぅぅぅ!!」


 ラストアタックを決めたクズハさんには、多めに魔力が流れ込んでいる。やったね。


「先生えぇぇ!! ぐ、苦じぃぃでずぅぅぅ! あ、あ、あ、漏、漏れっ」


 クズハの器に魔力が収まらないようだ。このままだと穴という穴から体液と共に魔力が吹き出してしまう。


 クズハはあんなに頑張ったのに、それはあまりにも可哀想だ。


 僕は補填された魔力で、即座に自身へ治癒魔法を行使する。欠損した左腕に、血肉をコネコネして再生させ復元。衣類を除く殆が元通りになる。


 一刻の猶予もない。急いでクズハへ駆け寄り手をかざし、魔力を練り上げる。


「へ、へへへ。す、すみませんねぇ、せ、先生」

 

 僕を視界に捉えたクズハが、安堵の笑みを浮かべ僕の手を握る。


「クズハさん、安心して下さい。魔力は無駄なく全て、クズハさんの体内にねじ込んでみせます」


「…ぇ、いや、もう魔力とかいいんで。このままだと私の身体が、爆ぜそうなんですけど」


「ええ、爆ぜてもいいように、これから処置をします」


「爆ぜてもいいって何ですか! 私、爆ぜたくないんですけどおぉぉ!!」


 僕は魔力障壁でクズハを包み込み、魔力漏洩を食い止める。その魔力障壁は治癒魔法を内蔵した、極めて高度な種型の治癒カプセルである。


「あの、何で私を閉じ込めるんですか?」


植物族アルラウネですが、生命の危機には種のような殻にこもり、その身を守るそうです」


「それ、単性生殖してるだけなんで。その身を犠牲に子供を作って、次世代に託してるだけなんですよ?」


「つまり、植物族アルラウネには身体を種の中で分解、再構成する能力があることを示しています。この魔力障壁は、その特性を利用した治癒カプセルです。脳や魂などの重要部位を治癒魔法で保護し、身体を魔力に馴染むまで作り替え続けます」


「え、何それ! 凄く怖い! いやダァぁぁ! 出してぇぇぇ………スヤァ」


 種の中で植物族アルラウネは冬眠状態に入るのだという。種族本能に抗えず寝てしまったのだろう。


「ふふ、お休み。僕の友達」


 僕はしばらく会えなくなる名残惜しさから、種のカプセルを優しく撫で付ける。


 厄災討伐した者は呪われ死に至る。そんな伝承がゲームの設定として存在している。


 きっとクズハのように魔力を受け止めきれず、死んだ者がいたのだろう。


 死に際にすら呪いを振りまく。厄災とは、とことん人類に対して不条理な存在なのだ。


 まあ、僕の治癒魔法があれば、覆せる程度の呪いでしかないのだけど。


 丁寧にクズハを倉庫ストレージにしまい、念入りに多重結界を施し保護をする。


 そして、入れ替わりにトルネンノイトの魂を取り出した。濁りながも赤く輝く凶星。厄災と成り果てた魂を胸に抱き、そっと呟く。


「恐れないで……僕が導くから」


 兵装化も久々だなぁ。


 感情に浸りたいが、ゆっくりもしていられない。


 今は死闘結界デスマッチの余波でまだ僕に干渉できないが、後数刻で影響もなくならだろう。


 そうしたら野次馬やみんなに囲まれ、面倒な事になる。


 特に、今からやる事をレイニィーは許してくれないだろうから。故郷を滅ぼした厄災を兵装化しようとしているのだから。


「堕ちし星の厄災よ。我が兵装となり星に救済を。罪名を捨て、あるべき姿をここに……」


 厄災とは滅んだ星が、歪んで転生した姿である。


 命を育む存在だった星は、厄災に滅ぼされ、厄災と成り果てる。だが、本来は生命を守護する星なのだ。


なんじ星名せいめいは、星繋ほしつなぎ銀灰プラナ=グレイの名のもとに命名するセンノイト!」


 トルネンノイトの魂が輝き、一振りのレイピアへと姿を変える、


 飾り気のない白銀のレイピアは、一見すると裁縫針のようにも見えた。この姿には恐らく意味がある。


 僕は改めて時空の裂け目を見上げる。


 トルネンノイトは時空を切り裂き、星々を繋げ、厄災の被害を拡大させる特性が悪質であった。


 レイニィーの星が厄災に溢れかえっているのも、トルネンノイトが時空の裂け目から、厄災を引き連れて来たからだ。


 なんとしても裂け目は塞がなくてはならない。


 だから君はその姿で兵装化したのだろう?


「行こう。センノイト」


 僕はセンノイトに導かれるまま、投擲の構えをとる。目指すは時空の裂け目。


 閉じるためには縫合しなければならない。


「糸は……そうか。そうだったね」


 日本領域エリアで紡いだあらゆる縁。


 その繋がりや、想い出、感情を代償に糸を編み上げる。それは、トルネンノイトと闘った少女の存在が人々から消えてしまう事を意味していた。


 それでも迷わない。全てを無かった事にするために。


「母さんのご馳走、食べ損ねたな」


 僕は次元の裂け目に、センノイトを投擲する。日本での出会いを紡いだ糸は、尾を引く流星のように輝き、空へと放たれた。



⭐︎⭐︎⭐︎



 その日。


 空に堕ちる箒星が観測された。


 空で大口を開いていた謎の裂け目は、箒星の衝突と同時に消滅が確認された。


 日本に現れた謎の剣も、忽然と姿を消していたのだが、その理由を知る者はいなかった。


 日本、世界を救うため戦った少女の記録は残っておらず、人々の記憶からも消え去っていた。


 一部の例外を除いて。



⭐︎⭐︎⭐︎



 ここは森の中だった。


 クズハと過ごした場所にログハウスを建て、僕は自給自足の生活していた。


「ほら、クズハさん、朝ごはんですよ〜」


 ログハウスのど真ん中には大きな植木鉢が置かれていた。そこには僕の大切なお友達が眠っている。今日も僕は、栄養たっぷりの聖水を注ぎ、カーテンを開けて朝日を浴びせる日課をこなしていた。


 トルネンノイトの任務クエストからから1ヶ月。


 大きな事件や日本領域エリアに行く機会もなく、友達の育成作業に専念することができた。


 ただ、始まりの街が他国に宣戦布告されているらしく、近いうちに僕が介入しなければならない。面倒なNPCたちである。


 この領域エリアに残された厄災や、勇聖祭もあるし、まだまだゲームコンテンツに終わりは見えない。アプデも期待して良いのだろうか。


 僕が希望に胸を膨らませていると、植木鉢がカタンと音をたてる。


 ジョウロを置き、朝日を浴びるその人影に微笑みかかる。


「ふふ、おはようございます」


 今日は最高の1日になるだろう。


 窓には、曇り無き青空が広がっていた。


 


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 これにて『一騎当千の聖女兵は曇らせる』は完結となります。


 ここまで見守って頂きありがとうございました。コメントやアドバイス、皆様の応援があったからこその作品でした。2ヶ月の休載を含めて語るべきは多くあると思います。日本でのその後や、始まりの街の端末など機会があれば不定期ながら書いていければと思います。


 最後にこの作品を共に作ってくれた読者の皆様に感謝の言葉でしめさせて頂きます。


 ご愛読ありがとうございました。


追伸

 本日『近況ノート』で完結記念のイラストと、コメントを投稿しております。プラナちゃんと、クズハちゃんを描きましたが、イメージを壊されたくない方はご注意下さい。ですが、見て頂けると嬉しいです。

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