第3話 情報漏洩にはご注意を
突如として老人の口から出た言葉に反応して思わず心臓がドクンっと跳ね上がる。
この世界で別種同士の血が交わることはない。
エルフはエルフ同士でしか、人間は人間同士でしか子供を成すことができない。
それがこの世界の理だ。
たがごく稀、数億数千万分の一の確率でこの理から外れ異なる種族と人間の間に子供が産まれることがある。
それが『混血種』と呼ばれる種族だ。
混血種は人類の柔軟性と種族として特徴や能力を併せ持った存在として産まれてくる。
その能力は本来の種族を遥かに凌駕する力をもち、混血種が引き起こした伝説は各地で吟遊詩人達に言い伝えられている。
例えば
日の光や神聖魔法などの弱点の耐性を持ちながら吸血鬼特有の不死の能力を授かった吸血鬼の混血種が当代の勇者に封印されるまで100年以上に渡りとある大陸を自身の強大な力で支配したお話や
本来使うことのできない魔法高い身体能力を持った獣人の混血種が、三年以上続いた泥沼の後継者争いをその力で終わらせたお話や
その強大な力を理性の支配下においた龍の混血種が勇者として魔王に支配されていた世界を救い一国の王様になったお話など
彼らの活躍は枚挙にいとまがない。
そんな伝説の存在が何故、今ここで・・・
「混血種?何言ってるんだ?そいつは伝説の種族じゃねぇか。年老いて耄碌しちまったかのか」
俺は老人を馬鹿にする様に言い放つ。
「とぼけても無駄じゃい、お主が混血種であることはすでに調べがついておるわい」
ただ老人はその言葉を気にも留めず、確信めいた視線を真っ直ぐ向けてくる。
その視線に晒されて、身体中から汗が勢いよく吹き出す。机の下に隠した手は微かに震え心臓の音が耳鳴りなほどに大きく騒がしく騒ぐ。
そう・・・老人が言うように、俺はインキュバスと人間の間に産まれた『混血種』だ。
インキュバスは、魔界に生息する悪魔の一種だ。サキュバスと並んで魔界において最も美しい存在として知られており、その美しさと狡猾さから人間たちからは魔界の誘惑者と呼ばている。
そんな魔界の誘惑者は人間と変わらぬ姿で街や都市の中枢に入り込みその魅力的な姿や誘惑的な言葉を駆使して人間を誘惑し性行為をすることで性的なエネルギーを吸収するとともに快楽の虜に陥いれる。
そして一度でもその快楽の虜になって仕舞えば最後
、あとは終わることのない快楽を求めて財産や名声を失い没落の道を進み始めるしかなくなる。
実際にこの快楽に囚われたせいで繁栄を極めた名門貴族の一族ルノワール家がたったの一年で没落したり、多くの戦場に名を轟かせていたアマゾネスの傭兵団がたった一晩で崩壊したりしている。
そんなインキュバスやサキュバスの存在は貴族や権力者の間で広く知られた話で突然の没落にサキュバスやインキュバスありと称されるほどだ。
権力者の間ではどんな魔族よりも恐れられている存在。絶対に自身のテリトリーに入れたく無い存在。
そんな訳もあって近年ほぼ全ての街や都市で決して安くは無い魔族避けが設置されていて絶対に街や都市に入れないようなら仕組みが作られており実際にインキュバスやサキュバスの能力を使うことが出来る存在が街や都市に入ることは無いはずだ。
混血種である俺、グレイリーウツ以外を除いて。
俺は人間の血が混ざっている分魔除けには引っかかことはない。
どんな高価な魔除けが張ってあろうと街や都市に自由に入ることが出来る。
恐らくこの世界で唯一街の中でインキュバスの能力を使える存在。
その気になれば美人の女だろうとプライドの高い女だろうと貴族の女だろうとその国の王女だろうと誘惑し快楽の渦に陥れることができるだろう。
まぁそんなことをしたらどんな結末であろうと最後は殺されることは間違い無いからやらないが・・・
そもそも俺の自身が多くの権力者を脅かす存在だ。
恐らくバレたら即刻討伐対象間違いなし。
下手に悪目立ちはできない。
だから俺は自己保身のため自分の力を隠して冒険者をやってきたし、当然自分が混血種であることを友人や仲間にすら言ってはいない。
だからこそ
(何で知っているんだ・・・いや鎌をかけているだけか・・・?)
そんな考えが一瞬頭をよぎる。
・・・が老人のただならぬ雰囲気と自信に溢れたその姿がすぐにそうではない事を嫌でも実感させられる。
「はぁ、何で知っているんだ?」
俺はため息をつきながら、誤魔化すことを諦めて老人に問いただした。
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