短編集 文披31題2023
三葉さけ
傘の向こう 【Day1 傘】
Day1 傘
ザッザッザッと雨が傘にあたる。安物の透明ビニール傘は雨の音に情緒がないな。バスはまだかとスマホで時間を確認し、まだだとわかって湿った靴の中で足の指を丸めた。車も通らない道路は、降った雨が跳ね返ってアスファルトが白くけぶって見える。
スマホに目を戻したとき、隣へ人が並んだ。横目で見えたのはベージュのパンプスを履いた白い足。水が染み込んだのか、パンプスの底のほうが変色している。水が染みて気持ち悪いだろうなと思っていたら、パンプスを履いた足が爪先立ちをした。え? っと思う。足は微動だにしない。エクササイズかも。待ち時間も無駄にしない、私にはない美意識。
スマホに目を戻し、ゲームを続けようと画面をタップするとカメラが起動して自分の靴が映った。なにこれ。カメラを閉じようとしても動かず、あちこち触ったらインカメラになった。眉をしかめた自分の顔のドアップにイラついてスマホを顔から離す。なぜか画面がいやに暗い。映る傘の向こうが黒い、と思ったら黒が何かに変わった。それはなにか顔のようで。すりガラス越しのような輪郭が、焦点が合ってクリアになる。傘の向こうから覗き込んでる目が見開き、そして、大きな口が笑いに歪んだ。
バッとスマホを手で覆う。心臓がバクバクとうるさい。そっと隣を見ると、誰もいなかった。
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