遠い花火

大西 詩乃

遠い花火

 空いたままの口から溢れそうになる唾液を飲み込んで、また忙しなく息を続ける。

 人の波に逆らい、灯りの静かな方へ向かう。

 点滅した青色が赤になるのを見届ける。

 ゆっくりと立ち止まり、座り込んだ。

 カバンからサイダーを取り出し、乾いた喉ごと飲み込む。

 青色が黄色になるのを見て立ち上がる。

 赤になり、3秒待って飛び出した。

 完全に人気がなくなった。街灯すら少なくなっている。

 そして、待ち構えていたのは、細くて長い階段。ゲームのラスボスのようだ。

 喉が痛む。もう始めほど動かない。しかし、止まることはない。

 後ろからの音に思わず振り返る。

 だが、燃えカスのような煌きと、先程まで自分がいた騒がしい灯りが小さく見えただけだった。

 その光景と事実に体が急かされる。

 ついにたどり着いた。ラスボスは倒したらしい。


「早っ。あはは!ちょー息切れてんじゃん」

「んだよっ…人がっ、必死こいて、来たのによ……」

「ごめんて、そんなに急がなくても良かったんだよ?」

「いや、見たいだろ、花火」

「そうだけど……。あ、アイスいる?」

「いる」

「即答じゃん。新発売梨味でいい?」

「おう、ん?新発売じゃなくて期間限定じゃね?」

「そうなの?!」


 そう言って2つのアイスが繋がった部分を切り離し、俺に渡した。


「……ドロドロ通り越してサラサラじゃねーか」

「えへへ、照れるなぁ」

「褒めてねーよ」


  彼女の笑い声に、遠くの、火薬の爆ぜる音が雑ざる。


「綺麗だね」

「……そうだな」


 そう言う彼女の横顔を眺めていた。


ーーー

ーー


それまでで一番派手な演出が終わると、何も無かったかのようにいつもの夜空があった。


「終わっちゃったね」

「そうだな。帰るか」

「あのさ、来年も……」

「ん?」

「来年も食べようね。梨味!」

「……おう」


 恋が実るまであと……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

遠い花火 大西 詩乃 @Onishi709

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る