day8 こもれび
千晴の手には小さなメモが握りしめられていた。
それは向かいの席の同僚、森永テオにもらった金平糖に入っていたメモで、可愛らしいデザインのメモ用紙に似合いの可愛らしい文字で「テオへ」と書かれていた。
(彼女さん、かな)
強く握りしめられたメモ用紙がくしゃりと音を立てる。
しかし恋人にもらったものをあんなにあっさり別の異性に譲るものだろうか。テオはそんなに適当な人間だっただろうか。ただの同僚でしかない千晴には判断ができない。
もしそうなのであれば、先日渡したウサギのぬいぐるみもその彼女の手に渡っているのかもしれない。
気づかぬ内に噛み締められた奥歯が痛い。
千晴の向かいの席は空いていた。昼休みに入ってすぐテオは外に昼食に行っていて、まだ戻っていないのだ。千晴の方は持ってきていた弁当を食べ終えて片付けようとしたところで、先程の金平糖と同封されていたメモを見つけてしまいどうしていいかわからずにいる。
(森永くんは普通にくれたけど)
であれば、自分がそこまで気に病まずとも良いのでは? そう割り切れるほど千晴の対人経験値は高くない。
悩んでも答えが出そうにないので千晴は弁当箱を洗いに行くことにした。
くしゃくしゃのメモ用紙をできるだけのばして金平糖の箱へ戻しておく。
給湯室で無心で弁当箱を洗い、席に戻る途中で千晴は何気なく窓の外を見た。
とても良い天気で社屋に沿って植えられている街路樹が木漏れ日を作っていて……その下にテオの姿があるのを千晴は見つけてしまった。
(電話、してる)
遠くて何を話しているかまではわからないけどテオの表情が明るいことだけはわかる。
「楽しそう」
もしかしてメモを残した相手だろうか。
千晴は気持ちが一気に落ち込んで、なのにそこから動けない。
しばらくそこに立ちすくみ、テオが通話を止めたのを見て急いで席に戻る。
その日の午後はまともにテオの顔が見られなかった。
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