閑話 アンリ様へ
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アンリ様へ
初めてお手紙を書かせていただきます。
先程はご不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございませんでした。
深くお詫び申し上げます。
私はご存じかもしれませんが、第一王子であるゼシフィード様の怒りを買い、婚約破棄された身です。
そしてゼシフィード様のご命令であなた様に嫁ぐことになりました。
そのため、アンリ様にご迷惑をおかけしているのではないか、良くない噂が立つのではないかと、心配しております。
もしあなた様の不利益になる時には、ぜひ離縁をしてくださいませ。
私はもう誰の人生の邪魔もしたくないのです。
一度だけアンリ様を国家式典の場でお見かけしたことがございます。
もう一度お会いできてうれしく思います。
世間から疎まれるようなお人ではないことが、この屋敷にいる皆さんの様子を見て分かりました。
夫婦として政略結婚ではありますが、アンリ様の邪魔にならないように支えていきたいと存じます。
長々と失礼いたしました。
私は何も不自由はありませんので、ご心配せずお仕事に没頭なさってください。
万一、私にできることがあればいつでもお声がけください。
エリーヌ
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手紙をそっと閉じると一つ大きく息を吐いて、その手紙を愛おしそうに撫でる。
「本当に君は……自分を低く見積もりすぎだよ」
そう言って彼は机の一番上の引き出しにそっと入れる。
綺麗でまっすぐな字は彼女が手紙を書き慣れている証。
だが、ところどころ書く内容に迷いがあったのか、インクの滲みが気になった。
(私が出た国家式典というと、建国300周年のあれか)
当時の事を振り返りながら、彼には一つ心に残っていることがあった。
(あの時の歌……あれは確か……)
澄んだ歌声を式典会場に響き渡らせた少女の歌声は、何かどこか悲しそうで寂しそうな声だった。
(そう、あの少女は金髪で……華奢な……)
アンリの脳内でその少女とエリーヌの姿が重なる。
もしかして、あれは彼女だったのかもしれない。
そう思い、彼は急いでディルヴァールの元へと向かった──
(私は君のことが知りたい……! 君は、君のそのたまに見せる切なそうな瞳は何を見ている?)
長年研究にしか興味のなかったアンリが、少しずつ動き始めていた──
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