チクタク時計ワニと雪解けの魔法
ねじまきねずみ
第1話 はじめまして
「
「2,350円。ちなみに税別だから間違えないでね。」
「さすが〜」
花柄のメイクポーチの値段を即座に答えたのは
ダークブラウンのミディアムロングをふんわりとまとめた髪型で、服装は営業にも行ける程度の堅すぎず柔らかすぎずのオフィスカジュアルだ。
ここ株式会社LOSKAは女性向けのポーチやステーショナリー、傘などの雑貨を作っているメーカーで、社員数は20名程度の業界では比較的規模の小さな会社だ。
「茉白さんて、もしかして全商品の価格暗記してるんですか?」
後輩社員の
「んー、さすがに全部ってことは無いけど、この2〜3年で発売したものは覚えてるかな。」
「えーすごーい!」
「すごいって…莉子ちゃんだってお客さんに聞かれるでしょ?すぐ答えられたほうがいいじゃない。」
「まあそうなんですけどね〜。柄も形もたくさんあって覚えられないですよー。さっすが主任!私はカタログ見る派です!」
商品カタログで確認するより前に茉白に値段を聞いた莉子は悪びれずに言う。
茉白は呆れたように眉を下げて小さな溜息を
「じゃあ、シャルドンの商談行ってきます!17:00には戻るから。」
そう言って茉白は会社を出て、営業先に向かった。シャルドンとは正式名称シャルドンエトワールグループ。アパレルや雑貨の店舗を全国に展開したり自社ブランドも販売する大手企業だ。
(シャルドンの
大規模なチェーンを抱える会社の商談では雑貨部門やコスメ部門などの商品ジャンル毎に担当バイヤーが決まっていて、メーカーの営業は担当バイヤーと商談をする。シャルドンの雑貨部門は、最近引き継ぎの挨拶もなく突然樫原バイヤーが辞めてしまった。
よほど急なことだったのか、今日のアポイントも担当バイヤーの名前は教えられず“雑貨部門バイヤー”とのアポイントとなっていた。
(どんな人だろう。知ってる人だといいなぁ…うちの商品の雰囲気が好きな人だともっといいな…)
(え!?)
シャルドン本社の商談ルームで茉白は目の前の人物に目を丸くしていた。
(なんでこの人が…)
茉白の目の前に現れたのは、シャルドンエトワールグループの専務であり社長の息子である
遙斗は20代半ばからシャルドンの経営に関わっている。コスメやアパレルでヒット商品の企画に
(34歳にして、社長目前といわれてる人…)
「いつまでそうやって突っ立ってるんですか?」
遙斗に言われ、茉白はハッとした。
「す、すみません!はじめまして、株式会社LOSKAの真嶋と申します。よろしくお願いします。」
そう言って、茉白は急いで名刺を差し出した。
「シャルドンエトワールの雪村です。」
「ちょうだいします…」
茉白は遙斗の名刺を受け取ると、まじまじと見つめた。
(雑貨部門・エグゼクティブマネージャー…)
そこに“専務”の肩書きはなく、どうやら雑貨バイヤーとしての名刺のようだ。
「どうぞ、おかけください。」
「は、はいっ」
遙斗は背が高く、奥二重のアーモンドアイに鼻筋の通った、華やかで迫力すら感じる美形の顔立ちで、染めたのでは無さそうなナチュラルな茶色味のある髪をしている。
そのビジュアルのせいか、雑誌やテレビの経済番組などで取り上げられることも多い有名人だ。
そんな人物が突然目の前に現れたので、茉白は幾分
遙斗の一歩後ろには秘書らしき男性が立っているが、遙斗の圧倒的なオーラの前に茉白はしばらく存在に気づかなかったくらいだ。
(さすがに仕立ての良いスーツ着てるなぁ…髪もサラサラで…生で見るとめちゃくちゃ迫力ある…)
商談ルームの大きなガラス窓から差し込む陽光で遙斗の髪がキラキラと輝いている。
「いつになったら商談が始まるんですか?」
座ってからしばらく遙斗に見入ってまた無言になっていた茉白に、遙斗が不機嫌そうな声で言った。
「あ!す、すみません!」
茉白は慌てて営業用のスーツケースからポーチのサンプルを取り出す。
「えっと…本日はメイクポーチの新商品のご紹介に伺いました。新商品は2タイプあって、それぞれ4色ずつの展開です。」
パステルカラーのシェル型とバニティ型のポーチを商談テーブルに並べ、説明を始めた。
「女子の好きなパステルカラーで、今人気のクリームソーダをイメージした…」
茉白は遙斗の視線に緊張しながらも説明を続ける。
「前任の樫原さんにはラフの段階で一度お見せして、好評だったので御社の店舗の雰囲気にも…」
———はぁっ
茉白がそこまで説明すると、遙斗が呆れたような大きな溜息を
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