第27話 料理②

 「人参、切り終わったぞ。」


多少のハプニングはあったが俺は何とか人参を切り終えていた。


「うん。ありがとう。じゃあ、後はルーを入れるだけだね。え〜と、ルーは何処だ〜?」


「ルーは確かそこの棚にあるはず……」


ルーと人参を使うということはカレーかシチューに絞れる。

そして、今は冬。この時期に食べるのはシチューだろう。

あれ……待てよ?

あっ……シチューのルーはこの前空腹で死にそうな時食ったわ。生で。あれはしょっぱかった。おすすめしない。いや、それどころじゃない!どうしよう……買いに行くしかないか……


「あっ……ルーは無いんだった。今から買いに行くよ。」


「いや、私が行くよ。」


「いやいやいや、俺が行くよ。料理も作ってもらったし……」


「あれは私がやりたかったから。」


その後、このようなバトルが数分程繰り返された。


 「で、何でこうなったんだ?」


俺は向と2人でルーを買いに向かっていた。


「いや……なかなか決まらないからもう2人で行こうってなったじゃん。」


「俺は了承したっけ。」


「杜庵に拒否権は無いよ。」


「まぁ、良いか……」


そんな事を喋りながら歩いていると、ふと、周りの視線が気になった。

町行く人からジロジロ見られてるような気がするのだ。

何か……コソコソ喋ってる?


「なぁ、なんか見られてないか?……えっ?」


俺は向の方を見て少し驚き、疑問の声を漏らした。

何故なら、向の顔が紅葉のように赤くなっていたからだ。


「どうしたんだ?」


「……耳を閉じて。絶対に周りの声を聞かないで。」


「えっ?どういう事?」


「いいから速く!」


俺は言われるがまま耳を閉じた。

どうしたんだろうか……

耳を閉じてからはお互い、無言の時間が続いた。

黙々と歩を進めていく。

やがて、スーパーマーケットに着いた。

道中、視線を感じなくなる事はなかった。

本当になんだったんだろうか?


「杜庵……もう耳を閉じるのをやめて良いよ。」


向が急接近して来て言った。


「うわ!ビックリした〜急に近づいてくるなよ~」


「近づかないと聞こえなかったでしょ?」


「それもそうか……」


「ほら!ぼーっとしてないでさっさとシチューのルーを買って帰ろう。」


やはりシチューだったらしい。


「あっ!置いていくなよ~」


俺達はその後、多分無事にシチューのルーを買って帰った。

っていうかこれってはたから見ればただのデートだったのか……それなら周りからジロジロ見られていたのも納得だ。

でも……なんか恥ずかしいな。

俺はシチューが出来上がるまでの間、そんな事を考えていた。



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