第5話 災難

 その後は、誰も言葉を発する事もなく、ただただ気まずい時間が流れた。

僕は別に気まずいだとかそんな物は気にしてない。

寧ろ静かな時間が好きだったりする。

だから僕は俗に言う陰キャ何だろう。

まぁ陰キャと陽キャの中間という“中途半端”なところじゃないだけましだが自分の事を陰キャと考えると悲しいものがあるな……

そんなくだらない事を考えていると、部屋に舞香が入ってきた。

夕食の準備が出来たのだろう。


「さぁ行くとするか……」


夕食はとても豪華なものだった。

恐らく普通に生きてる人間には一生食べれないものだろう。


「じゃあ、そろそろお暇させていただこうかな」


夕食を食べ終えた僕は言った。


「車で送っていってあげるよ。」


「悪いが遠慮させていただくよ。少し夜風にあたりたい気分なんだ。」


流石にそこまでしてもらうわけにもいかないだろう。

家まで結構遠いが丁度いい運動になるだろう。


「そう……じゃあまたね!」


「あぁまたな。」


そうして僕はビルを出た。

時刻は19時を過ぎていたが都会だからかまだ明るかった。

夜風がそよそよと顔に当たる。


「のんびり歩くとするかな……」


僕はのんびり歩き始めた。

ここら辺はあまり歩いて来ないので新鮮に感じた。

やがて都会エリアを抜け、少し静かな住宅街に出た。

ここからはよく通る道で、

いつも通りだ。

ゆっくりと歩いていると、公園にさしかかった。

ふと公園内を見る。

すると、男がベンチに座っているのを確認できた。

こんな時間に誰だ?

僕は興味本位で近づいてみた。

暗くて顔がよく見えない。

僕は意を決して話しかけることにした。


「あの……こんな時間にどうしたんですか?」


男は答えた。


「いや……別に……ただ考え事をしているだけだ。」


今まで雲に隠れていた月がやがて顔を出し男の顔が僅かだが見えるようになった。

そしてその顔を見た瞬間、僕は驚愕した。

何故なら男の顔は僕にそっくりだったからだ。


「失礼ですがお名前を伺ってもいいでしょうか。」


男は少し戸惑ったが答えた。


「涼風杜庵……それが俺の名前だ。」


やはりというべきか男の名前は僕の名前と同じだった。

世界にはそっくりさんが3人いると言われているが同姓同名はいないだろう。

そこから導かれる答えは1つ、“能力を使われている”!!


「お前!能力者か!!」


僕が強く言うと男は“こちらを向いて”固まった。

しかし、男はすぐに我に返り言った。


「おいおい!どうなってるんだ?なんで俺がいるんだ!」


「お前の仕業じゃないのか?」


「違う違う。俺はただの“瞬間移動”の能力者だ。」


「瞬間移動?」


「そうだ。お前は?」


「僕は“能力を『少し』奪う”能力者だ。」


「ふ〜ん『少し』ね~、で、なんで俺がここにいるわけ?」


「こっちが聞きたいよ!」


「これは憶測だが俺が気づかない内に異世界に来たんじゃないか?」


「どうしてそう思うんだ?」


「なんか分かるんだよ……この世界は何か違うって……しかも俺の能力は瞬間移動。つまり空間に関わる能力だ。それが何らかの理由で暴走したんじゃないか?さっきもこれについて考えてたんだがほぼ確定と言ってもいいだろう。」


「なるほど……それだと辻褄が合うな。ところでなんで能力が暴走したんだ?」


「それが分からないんだよ。それを思い出そうとしたら頭が割れる程痛くなるんだ。」


「そうか……とりあえず家来るか?お前は今1文無しだろう?」


「良いのか?」


「良いよ。色々聞きたいこともあるしな。」


「じゃあお邪魔することにするよ。」


僕らは家に向かって歩き出した。

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