夏休み短期集中短歌教室

望戸

夏休み短期集中短歌教室

「さんじゅういちもじ」口慣れず呟けば「みそひともじ」ときみは微笑む



赤銅の瞳に映る間抜け顔 レッスンその一「見たものを詠む」


歳時記は要らないらしい 好きなこと詠めばいいよと毛先で遊ぶ


突き抜けて濃い青 白い入道雲 ラムネの瓶の水滴の中


日焼け止め塗り忘れたか耳の上 きみも知らない秘密のメラニン


一歩でも踏み出せば蒸発しそう 日陰に居座るほかないふたり


天啓を浴びたみたいな夕立ちを眺めるきみを眺めていたい



レッスンその二「目に見えないものを詠む」 制汗剤のシャボンの薫り


本日もお日柄はよく 蝉たちに心の中でエールを送る


溶けそうな陽射しを避けて、ファミレスの沖縄フェアに逃げ込まんとす


生パイン、パッションフルーツ、ライチの実 サラダバーから南国が来る


「この歌がいいね」ときみが言ったから ドレッシングをついかけ過ぎる



「見えるものを詠んではいけない」レッスン三 スマートウォッチの心拍数とか


うちわには知らない街の祭りの名 去年は誰を扇いでいたの


まだ外は昼間みたいだ いつまでも今日が終わらずあればいいのに


参道に連なる裸電球は、手をつなぐには明るすぎるな 



「思うまま詠む」 告げられしレッスンは卒業試験も兼ねてるらしい


夏らしい言葉ばかりを集めたい 夏が来るたび思い出すため


この五文字、この七音が最後まで埋まらなければ夏も終わらじ





講師でも生徒でもなく「同志よ」と 延長戦の秋が始まる


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