第十五話 ジンクス
「ねぇ、おにぃ。それで、さっきの続きなんだけど」
僕が先生に意識を向けていると、いつの間に背後に回っていたのか後ろから妹に声をかけられた。
振り向くと、ベットに座って足をぶらぶらさせている妹が居た。
今更だけれど妹について書きたい。
妹はショートヘアーの明るい感じの子だ。容姿はまあまあで細身で背はそれほど高くない。顔は可愛い系だろうか、胸は年齢の割に少し大きい。風呂上がりにバスタオルを体に巻いただけのギリギリの格好でリビングを横切ることがあり、そのときにも目に入るので補正パットに騙されている、というようなことは無いだろう。
脚はすらりと長く、ということは無いけれど太くも細すぎもしない健康的な太さだ。色白なんだが今は夏なので陽に焼けて少し健康的な色合いになっている。
今日はパーカーを羽織っている格好なのだが、パーカー以外の衣類が見た目には見えない。まさかパーカーしか着ていないということは流石にないのだろうけれど、パタパタと動かしている脚の付け根が心配だ。股下10センチも無さそうなパーカーの裾から健康的な太ももがそのまま生えていて、どうにも何も穿いていないように見える。本当に本人の申告通り、パンツというかショーツを穿いてないのだろうか。
それにしてもパンツの問題だけではない。パーカーにしたって前を留めているファスナーがだらし無く降ろされているのだけれど、開いた隙間から素肌以外の要素が見えない。健康的な鎖骨と胸の谷間に艶めかしいビキニの水着跡と特徴的なホクロがくっきりと見える。
家の中とは言え、だらしない格好だ。兄としては見てはいけないものに対する好奇心と理性の間で行われる綱引きのせいで、どうしても目が踊ってしまう。
このようなときは、脳の処理に負荷を掛けて好奇心と理性の綱引きに水を差すのだ。
「103、107、足して210、109、113、足して222…」
「おにぃ、また怪しい呪文を唱えてる。
ねぇ、聞いてほしいのだけど、ねぇ、聞いてる?」
「…127、あ、ああ、すまない。
お兄ちゃんは、偶に呪文を思い出さないと生活に支障が出るんだよ。
で、何かな?」
妹のタブレットの件は重要だが、今は様子見だ。まずは妹の話に付き合おうと思う。
「おにぃってさ、AIに頼ってばかりなのに、AIの言う事を聞かないときもあるの?」
「いや、どうだろう。聞く聞かないではなくて参考にする為のAIだからね」
「…ああ、そっかぁ。なるほど、わかった。
さっきね。『嫌なら穿けば良いだろう』って言ってたから、ちょっとびっくりしちゃった」
なるほど。あの時の驚いた様子は、そういうことだったのか。失礼な子だな。まるで僕がAIに支配されているかのような物言いではないか。
「まあ、それはもういいかな。
その、おにぃは、ジンクスってどう思う?」
妹はパタパタと動かしていた脚を止めて、両手を合わせて指をもじもじと絡めながら、そんなことをポツポツと言い出した。
瞳が左右にゆっくりと動いている様は、考え考え言葉を紡いでいるように見えた。
ただ、両手を合わせたときに姿勢が前かがみになってパーカーの胸元が更に広がってしまい、ヘソと胸の膨らみがぎりぎりのところまで見えてしまっていた。兄の目には、裸と大差無い。
「…331、337、足して668…」
「おにぃ?」
僕ははっと我に返る。無意識に呪文モードになっていたようだ。
「…ああ、ジンクスね。ジンクスなら、あるよ。
たとえば冷蔵庫を開けに行くときは、テーブルの右側を通っていくんだ」
「そんなことしてたの?」
「ずっとそうだね」
「ふぅーん、そっかぁ。
おにぃ、私ね。私もジンクスあるの。
偶々それをしていたときに良いことがあったのね。
それで、それ以来ね。ずっとそうすることにしているのだけどね。
それから、何ていうのかな。それが当たり前になったというかね。
自然なことだと思うようになったのよね」
「よくわからんが、つまりジンクスが日常になったというような話か?
それなら僕も同じようなものかな。
さっきの話だけど、最初は冷蔵庫のときだけは必ずテーブルの右側を通るようにしていたのだけど、今ではトイレに行くときは扉を抜けるときに必ず左足からと決まっているんだよ。他にも徐々に増えていってね。
少し面倒に感じるくらいだよ」
「なにそれ、受けるんだけど。
おにぃって面白いね!」
妹は、もじもじしていた指を組んで見上げるように僕を見てきた。
その瞳は、何かとてもうれしそうに輝いていた。口元も口角が上がっている。
嬉しそうではあるのだけれども、彼女が腕を胸元に引き寄せたせいで、彼女の腕が胸の膨らみを押し上げて形を変えるところが見えてしまい、それがとても艶めかしいのだ。兄の目には、淫靡に見える。
「…677、683、足して1360…」
「…」
それにしても我が妹は、いったい何を話したいのだろうか?
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