第4話


「......」





ずっとこのまま、いられたらいいのに。





「...ねぇ。」





セツナの胸のなかで、心から思った。





「んー?」





この浮遊感は、夢のせいなのか、それとも...





「......ううん」





どんなに今が幸せでも、夢が覚めてしまえばまたいつもの日常だ。


また泣き出しそうになるのをこらえる。





「えーそういうのいちばん気になる!」





でも、今は...





「うん...」





今だけは...





「言って?」





...もう現実なんて見たくなかった。





「また、あいに来てくれる...?」





......静寂が怖くなくなった。


気まずい気持ちが薄れる。





「トワちゃん。」





「トワでいいよ。...私だって、セツナって呼んでるし。」




「!...トワ!」




「...ふふっ...」




「あははっ!」





セツナに押し倒される。





「セツナ、重いって」




「むー!失礼だなーっ!」





心から笑ったのはいつぶりだろう。





「だって、急に仲良くなったみたいで嬉しいんだもん!」




「ねえセツナ、さっ」
























暗い。





「きの、返....じ...」





...ああ...




現実だ。





目覚まし時計に目をやる。


...暗くて見えないので、なんとなく辺りをみる。






青暗く重たい空気。


夏の夜のこの湿り気が、いちばん苦手だ。





瞳孔が開いてゆく。





いつも、両親の喧嘩の声で起こされる。


決まって、父が帰ってくる23時頃だ。


...だから、時計なんて見なくてもわかる。




いつも起きてると、静かでも目が覚めてしまうんだな。






「...え.....?」





...“静か”でも...?





今日は、喧嘩してない...?


いや、そんなのありえない。




時計に目をやる。





「1時...?」






おかしい。


やっぱりおかしい。




喧嘩してないなんて。





...だっていつも、鍋の蓋が投がる音とか、お父さんの怒鳴り声とか、お母さんの泣き声とか、どれだけ疲れていた眠りでも起きてしまうような騒音を毎日欠かさず......






物音を立てないようにドアの隙間からそっと覗こうと近づく。





お母さんたちの部屋の電気は......ついている。







足音を抑えて、ゆっくりとドアへ近づく。


...聞き耳を立てるなんて、いけないことなのはわかってる。


きっと、聞いちゃいけないことだってあるんだよ。




...何か話している声が、やっぱり聞こえる。




おかしい。こんな静かなのはおかしい。






その瞬間、足に激痛が走る。




「い゛っ...!?」





画鋲だ.....




自分の部屋の片付けぐらい、しとくべきだった...





...そんなことより、バレた...?





足音が近づいてくる。




「...やば.....」









ドアが開く。




「トワ。起きてたのか。」





...お父さんの声だ。


しばらく見ていないその顔は、逆光でよく見えない。





「...いつから起きてたのよ。」




溜息まじりのお母さんの声も聞こえる。





「...ちょうどいいじゃないか。トワ、こっちに来なさい。」




「え...?」




「大事な話があるんだ。」




「え...私、もう寝よう...と...」





お父さんに腕を引かれる。











椅子に座らされる。





「いつから起きていたのよ。」




「えっと...さっき...」




「まさか聞き耳立ててたんじゃないでしょうね!」




「立ててないよ....ほんとに、さっき起きたの...」




「お前は少し落ち着いたらどうだ。」




「...えと...」




「だって、聞こえてたらどうするっていうの!?」




「聞かれちゃまずいことでも言っていたか?」




「...っ!」





お母さんは、動揺している。




...早く逃げたい...





「トワ。本当に聞いていないんだね?」




「...うん。」




「ならちょうどいい。トワにとっても大事な話だ。今から話すから、よく聞いてくれ。」




「ちょっとあなた!今日はもういいじゃ...」




「大事な話だと言っているんだ!!」





お父さんが、バァンと机を叩く。





「...お前。さっきトワが起きて紙を隠しただろう。出しなさい。」




「いやよ...」




「出しなさい。」




「......」





お母さんは、軽く腰を浮かせて、椅子との間に隠していたらしき紙を取りだした。





「トワ、見なさい。」





お父さんの言うがままに、私はそのクシャクシャの紙に目を落とした。








「......これ.....」

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