第44話 無双カップル配信
樹海地帯の二十一階層で迷いながらも、俺達は無事二十二階層へと辿り着いた。
どちらに進めばわからなくなっていたところ、意外にも突破口になったのは視聴者からのコメントだった。
似たような風景が続く中で進む方向に困ったところ、コメント欄を開いてみたら、例の二十五階層まで進んだシーカーパーティーのひとりがコメントを書き込んでくれていて、道を教えてくれたのだ。
言われた通り進むと、二十二階層への階段があった。そこからまた十分ほど階段を下っていく。
何故松本は他のシーカーが苦しむ中易々とダンジョンを攻略できたのかを考えてみたのだが、よくよく考えれば彼は〝
食糧問題があるが、ダンジョンの中には植物もあるし、水が流れている場所もある。調理器具さえあれば、ダンジョン内で食糧を調達して食事を摂る事も可能だ。もちろん、腹を下しそうなので、俺はやりたくないけれど。
そして、遂に二十二階層──そこで俺達を待ち受けていたのは、神秘的な緑色の光を放つエメラルドストライプの群れだった。数え切れないほどの群れが、俺達の来訪を感じ取り、まるで鎮座するかの如く待ち受ける。
「あらあら、随分と大勢でお出迎えして下さいますのね」
果凛は妖艶な笑みを浮かべ、前方に広がるエメラルドストライプの群れを眺めた。
彼女の瞳に畏怖や恐怖などは微塵もなく、ただ興奮と期待で満ち溢れていた。この群れをどの魔法で吹っ飛ばすのか考えているのだろう。
「まあ、こんな出迎え全然嬉しくないけどな。とりあえず、ここまで来たらもうすぐだ。とっとと片付けて、早く進もう」
「ええ、蒼真様。わたくしもそろそろ獣の相手に飽きてきましたわ。また競争でもしませんこと?」
俺は若干呆れながらも「了解」と肩を竦めた。
ゆっくりと剣を抜き、エメラルドストライプの群れに視線を向けた。嫌になる作業だが、競争にでもすれば多少は早く片付くだろう。
「さっさとかかってこい。なるべく労力は減らしたいんだ」
肩の力を抜いて、ゆっくりと剣先を敵群へと向ける。
次の瞬間、まるで俺の言葉を理解したかのように、エメラルドストライプの群れが一斉に襲い掛かってきた。しかし、もちろん餌食になってやるわけでもなく──宙を舞い、エメラルドストライプの群れを切り裂くために刃を走らせた。
獣の鮮血が散り、断末魔が響く。エメラルドストライプは瞬く間に魔石へと姿を変えていった。
一方、果凛は俺の背後で何やら魔法の準備をしていた。彼女の手からは魔力が黒いオーラとなって溢れ出し、樹海地帯を暗闇へと包み込んでいく。
彼女はどうやら暗黒魔法の〈
ただ、注意しなければ巻き添えを食らってしまう。〈
さすがに何の合図もなくぶっぱなしはしないだろうけど──と思っていたところで、予想通り果凛がこちらにちらりと目配せした。そのタイミングで俺は地面を強く蹴り、敵群から離脱する。
「さあ、醜い魔物達。わたくしの前で、踊りなさい!」
果凛が高らかに叫ぶと、無数の黒い光の雨がダンジョン全体に降り注ぎ、エメラルドストライプの群れは次々と消滅していった。彼女は続けざまに〈
それから俺達は、無数のエメラルドストライプの群れを瞬時に蹴散らすように前進していった。
ダンジョン内に響き渡ったのは、獣の絶望的な叫び声と、俺達の深い息遣いだけだった。もはや戦闘というより、一方的な虐殺。それが俺と果凛の
気付けば、無数のエメラルドストライプの群れは全て魔石に変わっていた。二十二階層は深い静寂が広がっており、その静寂はまるで俺達の勝利を告げているようだった。
「いけませんわ、わたくしったら。もう少し力を抑えないと……」
「まあ、今回はやり過ぎぐらいでいい気もするけどな」
「では、次は〈
「やめろ」
「もう、蒼真様ったら。冗談ですわよ」
果凛は上品に口元を隠して笑うと、俺の腕に自らの腕を絡みつかせてぐっと自らの方に引き寄せた。彼女の柔らかな胸の感触が、俺の腕に伝わってくる。
「さあ、次に参りましょうか」
「もう暫くこの大群の相手はしたくないなぁ」
「その際はまたお掃除すれば済むだけですわ」
いやいや、そっちは広範囲魔法で一気に仕留めるだけで済むかもしれないけど、こっちは剣を振るう肉体労働なんだよ。お掃除に対する労力の比率が俺と果凛では全く異なるのだ。
だが、お掃除の成果か、そこから二十二階層で魔物は現れなかった。俺達があまりに暴れ回ったので、八階層の時と同じく魔物達が隠れてしまったのかもしれない。
ちなみに、先程のこのエメラルドストライプとの戦いは見事に有志によって切り抜かれ、そまりんカップルの無双配信としてUtubeに転載。現在急上昇ランキングに入ってまたまたバズってしまっていた事など、この時の俺達が気付けるはずもなかった。
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