第3話 素材採取と衝撃の気づき

 依頼を受注してからまず向かったのは、冒険者ギルドの隣にあった道具屋だ。冒険者が必要とするものが一通り揃っている店らしい。


「いらっしゃい。何をお探しで?」

「ナイフを買いたいです」

「ナイフですね。そこの奥に五本あります。お好きなのをどうぞ」


 店員が教えてくれた場所に向かうと、確かに五本のナイフが壁に飾られていた。どれも無骨で使いやすそうなナイフだ。

 魔物に対して使うんじゃなくて、基本的には採取用だから……これは重すぎるし、こっちのナイフは刃が分厚すぎる。


 錬金工房で素材の処理をするときに使っていたナイフを思い出して五本全てを確認し、一番手に馴染んだものを選んだ。

 さらにいくつか冒険者としての生活に必要なものを購入し、依頼を受けに行く準備は完了だ。


「ありがとうございました〜」


 店員に見送られながら店を出ると、何となく入店時よりも背筋が伸びる気がした。やっぱり使いこなせなくても、武器を持ってると気が引き締まるな。


 六年前に一度はセンスがないと諦めた道だけど、また剣も練習するかな。素材採取で何とか食い繋いでいる間に、剣を練習して魔物討伐もできるようになるのが理想だ。

 魔物を倒してその素材を売れるようになれば、一気に生活は楽になるだろう。


 でもとりあえず、今は素材採取だ。最初に受けた依頼を失敗するわけにはいかない。俺は気合いを入れ直して、街の外門に向けて足を進めた。


「おっ、新人冒険者か? 気をつけろよ〜」


 外門を通る時に門番の男性に声を掛けられて、俺は数年ぶりに街の外に出た。街の外には魔物がいて危ないので、基本的に街中に住む人は外に出ることなどないのだ。

 街によっては魔物がほとんどいない地域で外門がない場合もあるらしいけど、この街の外はすぐに草原と森で魔物が生息している。


「おお……広いな」


 どこまでも続くような草原と遠くに見える森。そして先が見えないほどに続いている街道。

 俺はそんな景色に少し感動した。


 しかしすぐに切り替えて周囲への警戒を強める。素材採取の依頼だって、魔物に襲われる危険はあるんだ。しっかりと警戒して、魔物がいたら早めに逃げるようにしないと。


「依頼はヒール草を十本だったよな」


 ヒール草はどこにでも生えている薬草で、風邪薬などによく使われるものだ。しかし錬金素材としても使われていたので、かなり汎用性が高い素材だと思う。


 こういう草原に生えてるはずなんだけど……


 外門に近い場所でしゃがみ込んで探していると、数分で一つ目のヒール草を見つけることができた。これを何とか手で触れずに採取しなければならない。


 俺は鞄から、さっきの道具屋で購入した小さなトングを取り出した。錬金をするには繊細な処理が必要だったからトングじゃ無理だったけど、採取するぐらいならこれでもいけるはず。


 左手にトングを持ち右手にナイフを持って、ヒール草を上手く抑えて…………


「できた!」


 ナイフで切り取ることに成功した。トングで挟まれたヒール草は変質していない。あとはこのヒール草を買ってきた袋に入れられれば完璧だ。


 絶対にヒール草には触れないように注意して、一本目の採取が成功した。


「ふぅ……」


 俺はなんとかやっていけそうなことが分かり、安心感から大きく息を吐き出した。

 思わずその場に座り込んで両手を地面に付いて……手に草が当たる感触がしたところで、ヤバいと気づいてすぐに立ち上がる。


 しかし時すでに遅く、地面に生えていた草はキラキラと輝きながら変質していった。俺はその様子を見て思わずため息が溢れたけど、変質した植物を見て固まってしまう。


「これって、白華草だよな? こっちはヒール草だ。それにこっちは光草」


 どういうことだ……? 白華草なんてかなり希少な錬金素材だし、光草も草原にはないはずだ。森の暗い場所に生える草だったはず。

 ここの植物は、さっき俺のスキルで変質したんだよな? 変質してこんなにいいものになるってことは、変質前にはもっと凄いものが生えてたってことか?


 俺は何が起きているのかよく分からず混乱して、とりあえずまた近くの草を触ってみることにした。名前も付いてないような雑草に触れると……雑草が、光草に変化する。


「ま、待って待って、え、ど、どういうこと?」


 あまりの事態に動揺が収まらない。俺は深呼吸をして、自分のスキルに関して今の段階で分かってることを思い返してみた。


 俺のスキルは両手のみで発動するもので、発動は常時。一度変質したものが再度変質することはない。変質するのは素材段階のもののみで、製品になったものはなぜか変質しない。


 手袋などをしても変質は完全に防げず、数秒で変質が始まってしまう。トングのようなもので挟む場合は、基本的には変質しない。しかしかなりの長時間になると変質することもある。


 そして一番大事なところ。変質はほぼ確実に悪い方に行われる。


 今のところ分かってるのはこのぐらいだけど――確かに、生えている植物にスキルを試してみたことはなかったかもしれない。

 もしかして、採取前の素材はいい方向に変質するとか、そういうルールがあるのだろうか。


「マジか……最低なスキルじゃなかったかも」


 ポツリと呟いた言葉が自分の耳に届き、俺は口角が上がっていくのを抑えられなかった。




〜あとがき〜

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