第2話 冒険者ギルドへ
工房を飛び出してしばらく当てもなく歩いてから、やっと落ち着いてきた俺は近くにあった広場のベンチに腰掛けた。
「はぁ……これからどうするか」
俺は工房の屋根裏部屋を借りて暮らしていたから、仕事と一緒に住む場所まで失ったことになる。あそこにあった家具とかは支給品だし、取りに戻っても仕方ないよな……重要な荷物は全てこの鞄に入れていたから、この鞄の中のものだけが今の俺の全てだ。
といっても、この鞄にだって碌なものは入っていない。少ない給金をコツコツと貯めていたお金と、仕事に使ういくつかの道具ぐらいだ。
「そうだ。屋根裏部屋に服を置いてきたままだ……」
小さな収納スペースに畳んで仕舞っていた服を思い出し、取りに戻ろうか悩む。でも工房長はあんなに怒ってたからな……取りに戻っても、入れてもらえるかどうか分からない。
それどころか、今まで俺のスキルのせいでダメになった素材の弁償を求められるかもしれない。そう考えたら戻るのは悪手の可能性もある。
――もう古い服だし、諦めるか。
そう結論づけた俺は、とにかく仕事を見つけないとこの先の生活が成り立たないと思い、気合を入れて立ち上がった。
とりあえず住む場所は安い宿にしよう。それで服とか生活に必要なものは、中古で揃えるしかない。
ただ何をするにも金が必要だ。今俺が持っている金で生活できるのは……せいぜい一ヶ月ほどだと思う。その期間で定期的な収入を得られるようにしないと。
「冒険者ギルドに行くしかないか……」
冒険者ギルドとは世界中に広がる組織で、誰でも冒険者として登録ができる。冒険者にはランクがあって、そのランクに応じて受けられる依頼があり、それぞれ依頼を受けて達成すると報酬がもらえるのだそうだ。
完全な出来高制で、依頼中の事故などに関しては全て自己責任。依頼の内容は魔物討伐や素材採取、護衛など危険なものが多いらしい。
俺は孤児院を出て働き始める時に、冒険者になることも視野に入れた。でもあまりにも戦いのセンスがなくて断念したのだ。
だから冒険者だけは選びたくなかったけど……他に選択肢がない以上、仕方がないよな。
十二歳の時から六年間。ずっと椅子に座って錬金ばかりしていたから体は鈍ってるし、少しでも鍛えないと。
そう思った俺は、ギルドまで走っていこうと駆け足で広場を後にした。
それから数分後。俺は通りの端にへたり込んでいた。まだギルドには辿り着いていない。
「マジで、やばいな。……はぁ、走るのって、こんなに疲れるのか」
自分の体の弱さに自分で驚く。確かに思い返してみると、俺って工房から一歩も出ない日もあったもんな。それは体力だって底辺を這ってるはずだ。
「ふぅ……」
なんとか息を整えた俺は、普通に歩いていこうと決めて再度ギルドに向かって足を進めた。
とりあえず突然走ったりしたらダメだ。まずは毎日歩くようにして、それに慣れたらジョギングから始めよう。後は筋トレもして力を付けないと。
そんなことを考えながらしばらく歩いていると、冒険者ギルドに辿り着いた。六年前に何回か来た以来で、凄く懐かしい。
少しだけ緊張しつつドアを開けると……中は意外にも閑散としていた。冒険者が集まる時間じゃないみたいだ。
受付がいくつかあって、その中の一ヶ所だけ人がいたのでそこに向かう。
「冒険者ギルドへようこそ。ご依頼ですか?」
受付にいる女性はにこやかな笑みを浮かべて対応してくれた。ご依頼ですかってことは……俺が依頼を出す側だと思ってるのか。
まあ、それも仕方ないよな。このヒョロヒョロが冒険者登録をするとは思わないだろう。一瞬で魔物にやられて死ぬ未来しか見えないはずだ。
「いえ、冒険者登録をしたくて」
でも俺は冒険者以外に道がないのだ。ほぼ確実に採用されないだろう就職活動に時間を割いている暇はない。そんなことをしているうちに金が尽きて、その辺で野垂れ死ぬことになってしまう。
「……かしこまりました。冒険者とは危険な仕事も多いですが、よろしいですか? 全て自己責任となりますので、大きな怪我をした場合などに補償されることはありません」
「はい。大丈夫です」
女性はかなり心配してくれているのか眉間に皺を寄せていたけど、俺が躊躇うことなく頷いたのを見て、諦めたのか一枚の紙を取り出してくれた。
「こちらに必要事項の記入をお願いします」
「分かりました」
それからいくつかのやり取りを済ませ、登録料を支払って冒険者登録は完了だ。俺はFランクの冒険者カードを受け取り、さっそく依頼が貼られた掲示板に向かった。
冒険者はFからAランクまでに分かれていて、自分のランクの一つ上の依頼までしか受けられないらしい。ランクを上げるには依頼をたくさんこなし、冒険者ギルドの昇格試験に合格しないといけないそうだ。
「報酬が安いなぁ」
Fランクの、特にその中でも一般的な採取依頼は、毎日必死に働いて何とか暮らしていける程度の報酬のものしかない。
でも俺に戦闘技術はないし、魔物討伐なんて無理だから仕方ないよな。
「これにするか」
俺は街のすぐ近くでも採取できるような簡単な依頼を選び、依頼票を剥がして受付に向かった。
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