3.自信

「どうして、ここに!?」


 珠美は夢を見ているのかと思った。しかし、目の前にいる陰キャは、間違いなくヒクツだった。


「別れ際も暗い顔をしていたからさ、大丈夫かなと思って。それより、今、何をしようとしていたの?」


 珠美は唇を噛む。ヒクツの手を払い、目を背けた。


「もしかして、自殺をしようとしていた?」


 本音を隠すための言い訳の弁を考えるが、浮かんでは泡のように消えていき、観念した様子で口を開く。


「……そうだよ」


「どうして?」


「今、私が死ねば誰も苦しまずに済むから」


「珠美が苦しんでいるじゃん」


 珠美はイラっとしたが、大きく息を吐いて、気持ちを落ち着かせた。ここで感情を爆発させたところで、何も変わらない。自分がこの結論に至った経緯など、赤の他人であるヒクツには理解できないことだ。


「……私は別に苦しんでないよ。むしろ、私のせいで誰かが苦しむ姿を見る方が苦しい」


「なるほど」


 ヒクツは珠美の隣に立ち、思案顔で夜景を眺め始める。そんなヒクツを、珠美は煩わしく思った。何がしたいのか、考えが読めない。


「……さっき、『私が死ねば誰も苦しまずに済む』と言っていたけど、珠美が生きていたら、誰かが苦しむの?」


「ああ」


「何で?」


 珠美は組織のことについて話そうか迷った。ヒクツに話したところで、何かが変わるとは思えない。が、話さないとヒクツが納得しそうにない。だから、少しだけ話すことにした。


「……私が、12月24日までに死ぬ話はしたでしょ?」


「うん」


「その理由っていうのが、悪の組織から命を狙われているからなんだ」


「もしかして、明日のテロも?」


「そうだ」


「でも、それなら、俺が止めるよ」


「駄目なんだよ。明日のテロを止めるだけじゃ。その後もテロは続くし、止め方を間違えると、より面倒なことになる。だから、それで苦しむ人が増える」


「なら、その後のテロも俺が止める」


「……ただの高校生には無理だよ」


「大丈夫。俺はただの高校生じゃない。手品部の部長だ」


「……そっか。なら、ただの高校生じゃないか」


「その顔、俺の言葉を信じていないな?」


 珠美は口を閉ざす。当然、信じていない。手品部長に、印籠めいた御威光があるわけない。


「ならさ、とりあず、明日の俺の雄姿を見てから、判断してくれないか? それで多分、俺が只者じゃないってことがわかると思う」


「……嫌だと言ったら?」


「納得してもらうまで、珠美のそばを離れない。自殺されても嫌だし」


「なら、警察に連絡する」


「まぁ、でも、それはそれでありかも。警察を相手に粘り続けていれば、珠美も自殺している暇が無くなるだろうし」


「……どうして、ヒクツは私の自殺を止めようとするの?」


「当たり前でしょ。自殺しようとしている人を無視できるほど、俺は冷淡な人間じゃないよ。それに、珠美には感謝しているからね」


「感謝?」


「ああ。珠美は朝、俺に言ったじゃん? 『私みたいな美人と付き合えることは無いだろうから、1日だけ夢を見させてやる』って。それで、良い夢を見させてもらったから、その恩をちゃんと返したい。こう見えて、義理堅い人間なんでね」


「恩なら、この指輪で十分だよ」


「プレゼントなんて、俺が受けた恩からしたら、些細なことさ。俺はもっとたくさんのものを珠美から貰った」


「……なんか重いな」


「陰キャは一途だからね」


「はぁ」


 珠美は大きなため息を吐く。状況が違えば、ヒクツの言葉を嬉しく思ったかもしれないが、今はただただ煩わしい。何も知らないから、好き勝手なことが言える。


「……珠美はさ、今日のデート楽しかった?」


「え? まぁ、楽しかったけど」


「予想通りだった? 俺とのデートが楽しかったこと」


「いや、正直、あんまり期待していなかった」


「つまり、そういうことなんだよね」


「……どういうこと?」


「俺という人間は、良い意味で期待を裏切ることができる人間なんだ」


 自信満々に語るヒクツに、昔の自分の面影が重なった。タイムループが始まった頃、このタイムループから抜け出すことができると信じて疑わなかったあの頃の自分。あのときの希望に満ちた光をヒクツからも感じた。


(自信があるなら、やらせてみようかな)


どうせ無理だろうが、代わり映えのないループ生活の余興くらいにはなるかもしれない。


「……わかったよ。なら、明日の結果で判断する」


「ありがとう」


「あまり私を失望させないでね?」


「ああ、もちろんだ」

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