EP3.【ナツナ視点】エビマヨ
わたしは今日、神様とかいう概念のない次の世界に行こうとしていた。
学ぶものが何一つも無かった人生という学校の。最後の登校日なのに。
「ねぇ、神様とか好きなの?」
わたしの前を歩く、身長ほどあるギターケースを背負った変なお姉さんが聞いてくる。
「まぁ……いえ……お母さんの、手伝いで……」
神様? そんなものはわたしを救ってくれなかった。
大人も。友達も。あらゆる人みんなに嫌われて。中学に上がっても、高校に上がってもみんなわたしのこと怖がっていた。
「よかった。私はみんなが神! っていってくれる歌手になりたいなーなんて思ってたから」
歩いた先にたどり着いたのは公園の端っこにある屋根のついた休憩所。
ヒビが入った陶器でできた椅子に座ると、距離を開けて立ち止まったわたしを手招きする。
「はぁ」
よく顔をみたら、綺麗な人だな。
艶だったしっかりと脱色されたブロンドアッシュ。
二回以上ブリーチしたのかな。綺麗に色が抜けてるなぁ。
耳には月にクマが座ってるピアス。アルベイルの限定品だ。
600円という安さなのに可愛いしわたしも買いたかったんだけど、目の前で売り切れた。それももういいんだけど。
わたしと正反対の、自信に満ちあふれたつり目の美人さん。
わたしもあんな風に生まれたかったな。
商店街からそれほど離れていないのに、蝉の声以外無音の公園。
この人は、何を思ってこんなところにわたしを連れてきたんだろう。
「私、
フスッ。と鼻から空気が抜けていく。
エビマヨじゃないんだ。
じっとわたしの顔を見ていたお姉さんは、それをみて満足そうな笑顔になる。
陶器のイスは意外にも冷たくて、日陰で通り抜ける空気が心地良い。
叩かれてヒリヒリしていた左頬も、熱が消えていた。
叩かれるのが祝福? 誰のためのなんだよ。
「名前は? いまいくつ? あ、待ってね。ちょっと準備するから」
ずっとしゃべり続けているエビチリさんは、地面に置いたギターケースからスピーカーを取り出して、スマホで何かやっている。
ケースには乱雑に小銭と飲みかけのお茶のペットボトル、まだ開けてないサンドイッチ、化粧ポーチまで入ってるけど、そこにギターはなかった。
この女の人。わたしに何の用?
「それで、お名前は?」
「
……わたし、こんなところで何してるんだろう。
「へぇ、可愛い名前。私がエビマヨで、君はナツナちゃんだから、おそろでツナマヨだね」
「はぁ……」
初めて名前が可愛いって言われた。それに、嫌じゃないあだ名も初めて付けられた。
「ね、一曲聴いてよ。私が歌詞書いたやつでさ」
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