エピローグ ②






「うにゃあぁぁぁーーっっ!!」


 私は私の叫び声で目を覚ます。身体が、痛い。ちょっと動かすだけでピキッとする。ええと、ここは——。


「リナ!」


 ライラの声が聞こえる。その声はだんだんと近づいてきて——え、ちょっと待って待って待って——


「ふぎゃあぁぁぁーーっっ!!」


 ——ライラに抱きつかれ、再び叫び声を上げる私。ええと、なんだっけ。


「ごめん、リナっ!——『痛みを和らげる魔法』——『痛みを和らげる魔法』……」


 おーふう、痛みがだんだんと引いていく。少しずつ身体が動かせるようになった私は、もそもそと上半身を起き上がらせる。


 私が辺りを見回すと、私の顔を心配そうに覗き込むライラとヘザーの顔があった。


「うー、おはよう。えと、ここは……」


「リナ……あなた、丸二日も寝込んでいたんですよ?」


「そうだよ! 全然起きないから、すっごく心配してたんだからっ!」


 そうだ、私達は女王竜を倒して——え、丸二日も?


「あちゃー……寝過ぎちゃったね、ごめんごめん——」




 私は二人と話す。


 どうやら私とクラリスは『厄災』達の付き添いのもと、アオカゲによって街まで運ばれたそうだ。


 そして『厄災』達は、腐毒花を凍らせる旅に出たらしい。


 大変な状況ながらもオッカトルからは民兵が早速派遣され、ノクスさんも対応のために昨日にはサランディアに戻ったとのこと。来てたのね、ノクスさん。


 トロア地方の中央部は自由自治区なので兵も動かしやすい。瘴気の収まっているであろう今、『厄災』から渡された地図を参考に、二国は動き始めたのだった。



 そしてケルワン防衛戦。


 私のいなくなった後も皆は頑張り、苦労しながらもなんとか耐え切ったようだ。よかった。『義足の剣士』さんから大丈夫だとは聞いていたが、こうして二人の口から聞けて、心底安心する。


「よかったあ。ライラの結界のおかげだね。びっくりしちゃったよ」


「ホント!? リナ、びっくりした!?」


「うんうん。二枚も張ったなんて、大変だったでしょ?」


「ううん! 私もみんなの役に立ちたかったから……!」


 顔を赤らめブンブンと手を振るライラ。そんな彼女の頭を、私はヨシヨシと撫でる。



「それで、他のみんなは? 全員無事だったんだよね?」


「ええ。リナ以外、全員元気にしてますよ——」



 まず、誠司さん。あの人は一昨日は疲労感、そして昨日は筋肉痛に悩まされたらしい。まあ、歳だしね。


 セレスさんとマッケマッケさんは、事後処理に追われているとのこと。戦場で駆け回っていたと言っても、魔法で戦っていた面々の疲労はすぐに回復したみたいだ。


 魔法といえばヒイアカとナマカ。特にナマカの魔法なしでは絶対に勝てなかった。


 そんな彼女らは火竜戦の翌日の夜には、ブリクセン国へと帰っていったようだ。「長居するとハウメアが怒るから」と、名残惜しそうに去っていったらしい。


 あと、ボッズさんとジュリさん。彼らは酒場で毎日祝杯を上げているみたい。元気そうで何よりだ。


 そして、私を支えてくれたクラリスとアオカゲ。


 まずアオカゲは、一昨日こそ元気はなかったものの、昨日見た感じではいつも通りにまで回復している様子だったらしい。ありがとね、アオカゲ。


 次にクラリス。彼女は翌日の夜にはベッドから這い出して、ブツブツと笑いながら紙にペンを走らせているようだ。正直言って、嫌な予感しかしない。


「それで、ビオラや家のみんなも来てたんだよね? みんな元気?」


「はい。大変なんですよ? 日中はみんな、代わる代わるリナの様子を見に来てて。特に、あの、レザリアが……」


「あー……」


 これは、またもや詭弁を弄さなければならないかも知れない。もうネタ切れだぞ。


 私はヘザーに手渡された疲労回復薬を飲みながら、そんな事をぼんやりと考えるのであった。


 あれ? なんか一人、忘れているような……ま、いっか。








 その日の昼。ちょっと小洒落た料理店にて。



「ヒュー。まさか本当に来てくれるとは、思わなかったよ」


「まったく! リナが目覚めるってわかってたら! 別の日にしてたのに!」


「私は、タダ飯を食らうのみ、だ」


 そこにはテーブルを囲む、エンダーにレザリア、そしてグリムの姿があった。


「そんなこと言わないでくれよ。さあ、歓談を楽しもうじゃあないか」


「エルフは約束を守りますので、義理です、義理! さっさと食べて早いとこ——」


「うーん、これとか『白い燕』が好きなんじゃないかな」


「えっ、どれですか。あっ、注文お願いしまーす」


 そんな二人のやり取りを見て、グリムは目を細める。この二人には、本当に助けてもらった。彼らがいなければ、易々と結界は突破されていただろうから。


「時にエンダー。キミは三つ星冒険者になれたのかい?」


 昨日彼とクラリスは、ギルドに呼び出されて出向かっていた。まず、間違いないはずだが——そのグリムの問いに、エンダーは微かに笑った。


「ああ、おかげ様でね。『歌姫』もそうさ。何しろ集団戦とはいえ、『火竜百頭の討伐』という偉業を成し遂げたんだ。あの戦いに参加した二つ星以下の冒険者は、全員ランクアップさ」


「ほう。なら、レザリア。キミも上がったのかい?」


「……ええ。私とライラもとりあえず一つ星に上がったみたいです。二つ星に、という話も出たらしいのですが……他の参加出来なかった冒険者達がいる中、私は突発的に参加してしまったので。なので、内密にしておいて欲しいと」


 なるほど。ギルドの言うことも頷ける。


 内情を知る者ならともかく、名目上は無印冒険者であるレザリアとライラのランクアップが知られてしまえば、参加した者勝ちではないかとの不満が出てしまうだろうから。


「……まあ、とりあえず二人ともおめでとう。さあ、食事を楽しもうじゃないか」



 三人は歓談する。莉奈が回復次第、打ち上げを行うとのことだ。三人は莉奈の話で盛り上がり、その日に思いを馳せるのであった。




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