『厄災』来たりて 05 —死闘—
†
誠司は影をかわしながら駆け回る。地面から次々と打ち出される影。捕まったら終わりだ。
「——『
誠司は駆けながら照明魔法を唱え、光を身体に
気休め程度だが、『半月』程度の影の濃さなら、これである程度
誠司はルネディとの距離を一気に詰め、刀を突く。その切っ先はルネディの頬を
だが、その頬から流れでる黒い血はすぐに傷口に吸い込まれ、瞬く間に傷を修復してしまう。
「ひどいわ。女性の顔を狙うなんて」
「……言ってろ」
クスクスと笑うルネディに、誠司は悪態を吐く。これまで何回か誠司の刃はルネディに届いてはいるものの、この様にすぐに修復されてしまうのだ。
(……
歳をとったな、と誠司は痛感する。
普段から鍛錬は欠かしていない。
だが、この緊張感の続く戦いの中、誠司は疲れを感じ始めていた。加えて、久しぶりの実戦だ。
誠司は影を避けながら、一旦、ルネディと距離を取る。
「あら、どうしたの、セイジ。もうお疲れ?」
——見透かされているな。と、誠司は舌打ちをする。
「……お前を殺す方法を、考えているだけだ」
そう誠司は強がるが、その肩は上下に揺れ始め、
「ふふ。今のあなたに、そんな方法ないと思うけれど。ねえ、セイジ。少しお話、しましょ?」
そう言って、ルネディはコロコロと笑う。今更何を話すのだ、と誠司は思うが、疲労を少しでも回復したい。誠司は、ルネディの提案に付き合う事にする。
「……何だ」
「ねえ、マルティやメルも、殺したの?」
「……ああ、私達が殺した」
その誠司の返答に、ルネディの顔が怒りに歪む。だが、次の瞬間には真顔に戻り、つまらなさそうに呟いた。
「ふうん、そうなんだ。まあ、あなたとエリスという女が組めば、当然ね。ねえ、何で私、生き返ったのかしら。あなた、本当に何も知らないの?」
「……知るかよ。それこそ、こっちが聞きたいね」
そう。あの時確かに、エリスが肉体を消滅させ、肉体から離れた魂を誠司は斬った。魂の消滅も確認した。生き返るはずがないのだ。
だが、目の前の女性はルネディで間違いがない。以前に比べ、理性的になっているのが何か関係しているのか?——考えても、答えが見つかる筈はなかった。
思考を巡らせながらも相変わらず睨み続ける誠司に、ルネディは
「ありがと。聞きたい事は、それだけ。ゆっくり休めたかしら? それじゃ、再開しましょうか」
「痛み入るよ、ルネディ。欲を言えば、新月まで休ませて貰いたかったがね」
再び、誠司は駆け出した——。
†
戦闘は続く。果てしなく。だが、誠司にとって、戦況は先程よりも厳しいものとなっていた。
「——『暗き刃の魔法』」
ルネディが魔法を唱えると、闇に紛れた無数の刃が誠司を襲う。
「……くっ!」
以前——二十年程前の戦いでは使ってこなかった魔法だ。人型の影を避けながらの、この魔法はきつい。
この視認性の悪い闇の中では、『暗き刃の魔法』はまさに凶刃となり、誠司に襲いかかってくるのだ。
致命傷こそ避けてはいるものの、先程から何発も貰っている誠司の身体は赤く染まり始めていた。
それでも誠司は駆ける。ルネディ目指して。彼女にその刃が届くまで。
「ほらほらあ、どうしたの。私を殺すんでしょう?——『暗き刃の魔法』!」
ルネディは嬉々とした様子で、魔法を放つ。
なんとか避けようとするが、ついにその一発が誠司を捉えた。誠司の足に、するどい痛みが走る。
「……ハァ……ハァ」
誠司はもう、荒い息を隠す余裕もなくなっていた。
足はまだ動かせそうだが、明らかに機動力に影響をきたしてしまうだろう。影達の伸びる手を転がって避け、刀を地面に突き、誠司は立ち上がる。
(……私は……死ぬのか?……ここで?)
誠司にそんな予感が走る。
死ぬ事自体は、別に怖くはない。
ただ、今ここで死んでしまうと、誠司から解放されたライラが出てきてしまうだろう。しかも眠った状態で。それは絶対に避けなくてはならない。
何より、約束したのだ。エルフと、莉奈と。そこまで考え、いざとなったら生に執着している自分に気付き、誠司は自嘲する。
「ずいぶんと余裕ね。こんな状況で笑っていられるなんて——『暗き刃の魔法』」
誠司は大きく避けようとするが、その方向に影がいるのに気付き、無理な体勢で身体を捻って方向を変える。
だがそのせいで、一発の刃が誠司の眼前に迫ってきた。誠司はとっさに、左腕でその刃を防ぐ。誠司は左腕をダランと下げ、右手一本で刀を構えた。
「……ハァ……ハァ」
「……ここまでのようね。いいわ、楽に殺してあげる」
気がつけば、影達が誠司の周囲を囲んでいた。誠司は刀を薙ぎ払うが、当然、影達に当たった刃は影達をすり抜けてしまう。
やがて、影達は誠司を掴む。多勢に無勢だ、抵抗を試みるが、誠司は影達を振り解く事は出来なかった。
ルネディがゆっくりと近づいてくる。
「……やめろ、来るんじゃない」
「あら。この
ルネディが目の前に立つ。
「お願いだ、来るんじゃない!」
声を震わせ嘆願する誠司を見て、ルネディの顔に失望の色が浮かぶ。
「……見損なったわ、セイジ。私、こんな奴に殺されたなんて。さっきまでの威勢は何処にいったの?」
ルネディは誠司の顔を覗き込む。だが——半ば泣きそうな顔で、誠司は叫んだ。
「——来るな、来るんじゃない、莉奈!」
「……え?」
その瞬間、空から風にはためく何かの音が、ルネディの耳に聞こえてきた。ルネディはその音の方を見ようとしたが、遅かった。
——
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