Day14「お下がり」

「え、おまえ何読んでんの」


 同期の彼が、ぎょっとしている。

 腹立たしいが、一方で分からなくもないと思ってしまう。


 何しろ講義に全く関係ない美術史の本を読んでいるのだから。

 文庫本サイズでページ数もしれているが、表紙全面に西洋画が使用されているので目立つのだろう。


「お前の趣味じゃないだろ、それ」

「彼女がくれたんだよ」

「マジか!」


 彼の顔が露骨に輝く。


「よかったじゃん!」

「お下がりだけどな」


 読み終わった本を譲ってくれたのだ。読みやすい本だから、これを読んで絵にもっと興味を持てばいいと。


 確かに読みやすいのだが。


「絵に『は』興味はないんだけどな」


 彼女は未だに気が付いていない。俺が引っ付いて行っているその理由に。

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