映画を見にいく悪い女

りりぃこ

映画を見に行くプロジェクト

第1話 私は愛している

「ただいま」

 いつもの時間通り帰宅し、私は家のドアを開ける。

「おかえりなさい」

 玄関では必ず、敦さんが出迎える。

「今日はさばの味噌煮です。美香さん好きですよね」

「ええ。好き」

「よかった。じゃあその前に」

 はい、と敦さんは私の前に手を広げた。私はすぐに鞄からスマホを取り出して敦さんの手のひらに置く。

「何も特別なことはなかったですよね」

「ええ」

 私は頷きながらも、内心ドキドキしていた。別にやましいことなんてしていない。ただ、この瞬間だけはどうにも慣れないのだ。敦さんは私のスマホを操作する。

「13時08分、会社の外に行ってますね。これは」

「ストッキングが破れたの。コンビニに買いに行ったの」

 ほら、と私は破れたストッキングを鞄から取り出す。この事を言われるかと思って、捨てずに取っていてよかった。あと、レシートも見せる。

「店員さんは男?女?」

「えーっと、若い女の人だったとおもうけど」

「なるほど。なら大丈夫です。ほら、手を洗って来てください」

 敦さんはそう言って私のスマホをポケットに仕舞ってキッチンへ向かった。私はホッとして息をはく。


 手を洗ってきて、夕食の並んだテーブルの席に着く。

「美味しそう」

「魚が安かったんです」

「でも、敦さん今週締め切り近くて忙しいんじゃなかった?買い物くらい私が行くのに」

思わずそう言うと、敦さんの顔が少し歪んだ。

「美香さんが行くなんて冗談じゃないです。いつどこで誰に目をつけられるかわからないじゃないですか」

「そんな事……」

 敦さんは私に近づいて、強く私の腕を掴む。

「痛い、敦さん……」

「仕事に行くのは、美香さんがどうしてもって言うから許してるんです。本当はどこにも出さずにいたいんですよ。何度も言っているでしょう」

 敦さんは無表情で淡々と言う。

「こんなにもかわいい美香さん、誰にも見せたくないんです。僕だけのものなんだから」

そう言って敦さんは私を強く抱き締めた。

「ごめんね、分かった。分かったから、痛いよ」

 私はそう訴えるが、敦さんは離してくれない。

 夕飯が冷めていくのを、遠くから眺めていることしか出来なかった。

※※※※


付き合っていた当初から、少し束縛の強い人だとは思っていた。それが結婚してからは更に強くなった。

 スマホに位置アプリやら入れていつでも行動を把握され、ネットの閲覧履歴まで監視され、人気俳優のニュースなんか見ようものなら一日中泣かれて仕事にすら出してもらえなくなる。

 テレビもニュース以外禁止、買い物もほぼネット通販ばかり。買い物内容に文句を言われることはほとんど無くて自由だけれど、必ず何を買ったかはチェックされる。休みに外出するときは必ず敦さんが一緒だ。


 言ってしまえば軟禁状態である。


「どんどんひどくなってる気がする」

 私はベットに寝転がりながら呟く。


それでも――――


「美香さん」

 お風呂から上がった敦さんが少し暗い顔で寝室にやってきた。

「さっきは痛くしてごめんなさい」

「え?あ、ああ、さっきの」

「美香さんを怖がらせたいわけじゃないんです」

「分かってる」

「愛してるんです。だから心配なんです」

 そう言って敦さんは、本当に優しく私を抱き締めた。

「愛してます」

「分かってる。私も」


 それでも、そんな彼を私はも愛しているのだ。





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