とき時計

おじさん(物書きの)

ときの流れを楽しむ

 息子が成長して行く様を見ていると、父親という存在を強く感じる。かつて、私の父が幼い私を見ていたあの眼差し。

 あの頃の私は父に追いつく事ばかり夢見ていたように思える。

 未だに空を見上げてしまうのは、父を見上げていた頃と変わりない。

 家の雰囲気だとか匂いだというものは、その家に住む者が創り出すものだが、その歳月による変貌は、ときとして外へと出て行った者の方が感じないものだろう。

「あら、早かったのねぇ。あらあら。おちびちゃんたちも大きくなって」

「ただいま。——ただいま父さん」

「どうしたんだい、急に」

「何言ってるんだよ、たまには孫の顔を見せに来いって言ったのは父さんじゃないか」

「そうだったかな」

「今朝まで楽しみにしていたじゃありませんか」

「ほら、おじいちゃんとおばぁちゃんに挨拶して」

「こんにちは!」

「…ちは!」

「まあまあ、元気のいい事。お茶菓子でも出しましょうね」

「うん!」

「おじゃまします」

「あら、他人行儀ねぇ」

「済みません」

「二回目だっけ?」

「ええ」

「くつろいで行ってね」

「でかーい!」

「…かーい!」

「まだ大きくなってるのかい」

「今じゃ、文字盤も見えんよ」

「これって…」

「ああ、前に来た時は文字盤が見えていたものな」

「何年か前に天井を突き破ったのよ」

「この上は物置に使っていた部屋だっけ」

「どういう事?」

「ん? ああ、この時計はさあ、成長しているんだ」

「初めは懐中時計だったんだがな」

「俺が憶えてるのはこれくらいの置き時計だったんだが、中学に入った頃には柱時計になってたな」

「何時の間にか振り子が出来て」

「慣れない内はカチカチとうるさくてねぇ」

「そろそろ鳴るぞ」

「もう三時か——」


「うるさーい!」

「…さーい!」

「こら、走り回らない」

「でも、これからどうなるのかしら」

「おとうさんとは時計台にでもなるのかしらって話してるの」

「家を壊されちゃかなわんがな」

「外に運び出す訳にもいきませんしね」

「そのうち懐中時計でも産んだりしてな」

「あら、おちびちゃん、何もってるの?」

「これ! そこに落ちてた」

「…てたぁ!」




                 〈了〉

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とき時計 おじさん(物書きの) @odisan_k_k

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