第4話 どっちもダメ!
「ねぇ、【テコキ】って、大変?」
突然彼女に真顔で聞かれて、目が点になる。
「えっ……と」
彼女はいつもの定位置。
俺の隣の布団の真ん中。
俺もいつもの定位置。
彼女の隣の布団の真ん中。
夜遅くに、そんな位置関係で突然耳にする【テコキ】という単語で、俺が想像するモノと言えば……
いや、でも、俺の彼女は軽々しくそんな言葉を口にするようなオープンエロな彼女じゃないはず。
どうした、いったい?!
「【テコキ】じゃない方がいい?」
暗がりの中でも分かる。
照れた様子もなく、彼女は至極真面目な顔で俺を見つめている。
元々が真面目な彼女だとは言え、こんなことをこんな真面目な顔で突然聞かれても……
「そ、れは、可能であれ、ば……」
答えもしどろもどろな俺に構うことなく、彼女は何故か思案顔。
「そっかぁ。じゃあ、【アシ】にしようかなぁ」
「……はぁっ?!」
思わぬ言葉に、俺の目は再び点に。
「え?【テ】より【アシ】の方が楽そうじゃない?【アシ】も大変?」
「い……いやぁ、【アシ】は【アシ】で大変じゃないかと……」
(実際のところどうなんだろう?【テ】は自分でシてるからまぁ分かるけど、【アシ】は経験ねぇからなぁ……でも、やってくれる方としては、【テ】も【アシ】も変わらず大変なんじゃ……?まぁ、やってもらう方としてはだなぁ……欲を言えば、【テ】よりも【アシ】よりも、どちらかと言えば【クチ】を希望というか……)
などと下心満載な俺の顔をじっと見つめながら、彼女は言った。
「やっぱり【テコキ】がいい?」
「てかさ、それ、いつするの?今?」
「は?そんなわけ無いでしょ。何言ってんの」
「ですよねぇ……」
「ていうか、当日は絶対応援しに来てね!」
「……はぁっ?」
俺の目が三度点になったのは、言うまでもない。
(それはナニかい?どこかで闇の【テコキ選手権】でも開催されると言うのか?それでお前は、彼氏である俺を差し置いて俺以外の男とその選手権に出場するつもりで、俺にその応援に来いと?!)
頭の中で繰り広げられる妖しい妄想に、ワナワナと握りしめた拳が震え始めた頃。
「あれ?まだ見せてなかったっけ?」
と言いながら、彼女は布団から起き上がると、テーブルの上からペラ一枚のチラシを持ってきて俺に手渡す。それは、近所で開催されるという、18歳〜20歳女子限定のボート大会のお知らせ。
「今度すぐそこの川でボートの大会があるんだって。今日、これ配ってたの。【手漕き】部門と【足漕き】部門に別れてるのよ。面白そうだから出てみようと思って、どっちにしようか迷ってたんだけど、ねぇ、どっちがいいかなぁ?【手漕き】?【足漕き】?」
「お前なぁ……」
それは、【テコキ】じゃなくて、【手漕ぎ】だっ!
言おうとした俺の目は、四度点になった。
チラシには確かに、【手漕き】と印字されていたのだ。
うっかりか?
いや、こんなうっかりあるか?!
ワザとか?
これは絶対ワザとじゃないか?!
俺は彼女に言った。
「出るな、こんな大会」
「えぇっ?!なんでっ?!」
「色んな意味で、危なっかしい」
だってあり得ないだろ、こんな印字ミス。
だいたい、出場対象者もおかしい。
何故18歳〜20歳女子限定なんだ?!
こんな大会だったら、チビッコや力の有り余っている男どもを出場させた方が、大会としては盛り上がるに決まっている。
主催者のヤロウ、ボート大会とは仮の姿で、本当はうら若き乙女たちを集めて、闇の【手こき】【足こき】大会でも、開催するつもりだろ!
「この話、他の人とはしてないだろうな?」
「うん。なんで?」
キョトン顔で俺を見る彼女。
……彼女の天然っぷりも、どうしたもんかな……この際、彼氏として俺は本来の言葉の意味を彼女に教えてやるべきだろう。
「あのな。【テコキ】ってのはな……」
俺の話を聞きながら、彼女の顔は面白いくらいに見る見る間に真っ赤に染まった。
ひとつお勉強になったな。
「今度、俺にしてくれるか?」
「……バカ」
なんでだよ?
いいじゃないかっ!
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