俺の彼女は困ったちゃん
平 遊
第1話 いれっぱなし?!
「やっぱり、入れっぱなしのほうがいいみたいだなぁ」
俺の隣の布団に寝転んでスマホを見ながら、彼女が小さな声で呟く。
「入れたり抜いたりが激しいと、壊れちゃうよねぇ……」
スマホの明かりだけに照らされている彼女の顔色は、俺の場所からは分からない。
だけど、これって……
(アレ、のことだよなぁ?)
不思議に思いながら、俺は彼女の横顔を見つめた。
俺の彼女はヤル時は普通にエロいけど、いつでもかつでもエロいことを考えたり言ったりするようなタイプではない。
どちらかというと、恥ずかしがり屋で、普段する時もいつも俺から誘うくらいだ。
彼女から誘ってきたことは、今の所まだ一度も無い。
その、奥手ともいえる彼女の、意外な発言。
一体スマホで、何を見ているんだ……?
「ねぇ」
突然スマホを下向きに置いた彼女が、コロコロと体を回転させながら俺の布団の中に入り込み、俺の体に体を密着させて耳元で囁く。
「入れるときは、できるだけ乱暴にしないでね」
「あ……はい」
「抜く時も、できるだけそうっと、ね?」
「あ……はい」
まさかの、彼女からの初のお誘いか?!
そう思った俺は、何やら思わず緊張して敬語になってしまった。
「思ってるよりずっと、デリケートなんだからね」
「うん。それはちゃんとわかってます」
「ほんとに?でも、急いでる時とかはちょっと乱暴になっちゃう時もあったりするでしょう?」
「えっ?!そんなことあった?!」
「うん、たまに、だけど」
「ごめん、ほんとごめんなさい!俺、これからは絶対に乱暴になんかしないから!」
「ほんと?」
「……できるだけ、頑張る」
暗がりの中、ウルウル目で俺を見つめてくる彼女。
こんなことをされたら、誰だってこう答えざるを得ないだろう。
っていうか、こんなことをされなくたって、こう答えるさ!
大事な、大切な、可愛い彼女なんだから!
(乱暴って……俺、そんなに乱暴にしたことあったかなぁ?確かに、限界だった時はあったし、多少強引に事を進めた事はあったかもしれないけど……でも、そうでもしなきゃ中々進まないし、アレに至っては、乱暴にするなと言われたところでいかんともしがたく……)
「それでね、知ってた?本当は入れっぱなしの方が長持ちするんだって」
「えっ?!」
「やっぱり知らなかったでしょ。あのね、入れっぱなしがいいんだって」
相変わらず、暗がりの中、ウルウル目で俺を見つめる彼女。
(長持ちって……えっ?そんなに俺、早い方でもないはずなんだけど?もしかして今までずっと、不満だった、とか?!)
「そ、それはそうかも、だけど……」
「だから、協力してくれるかなぁ?」
「えっとそれは、今よりも長持ちした方がいい、ってこと、ですよね?」
「それはもちろん」
なにやら、彼女の言葉がグサグサと胸に刺さる。
(そうかぁ、俺、早かったのかぁ。ずっと不満だったんだな。早く言ってくれれば……って、言われたところでご希望に添えたかどうかは分からんが。俺、ご希望に添えるのかなぁ?入れっぱなし、試してみるか?!)
「……鋭意努力します」
「そんな大げさな」
クスクスと笑うと、彼女は再びコロコロと体を回転させて自分の布団の定位置に戻りながら言った。
バクバクする心臓を持て余す俺を置き去りにして。
(えっ?!ちょっとまって!嘘でしょっ、それで終わり?!話だけ?!今からスルんじゃねぇのっ!これ、俺を誘ってくれたんじゃねぇのっ?!)
「早速だけど明日、一緒に買いに行こうね」
「えぇっ?!」
呆然とする俺に、さらに追い討ちをかけるような思いも寄らない彼女の言葉が、俺の脳天を刺激する。
(買うって、えっ?!ゴムはまだ全然足りてるはずだし……てことは、もしかして……ゴムじゃなくて、道具の方?!ウソだろっ?!俺のだけじゃ全然物足りないって事?!しかも、一緒に買いにって?!……何の罰ゲームだよ……俺、なんかしたか?俺じゃそんなに不満だったっていうのか?!それとも、まさかの新境地を開拓したい、とか?!あぁもう、訳わかんねぇっ!)
そんな、嵐のような俺の胸中を知ってか知らずか。
「もう寝るね。おやすみ」
いくらも経たないうち聞こえてくる彼女の寝息。
もちろん、俺はそんな気持ちを抱えたまま寝付ける訳もなく、まんじりともせず迎えた翌日。
彼女に連れられて寝不足の俺が向かった先は、家電量販店の……
「これ、家用ね。で、これは持ち歩き用」
スマホ充電器コーナー。
「コンセントに入れたり抜いたりが激しいと、壊れやすいんだって。ほら、ここ。引っ張るとね、中で断線しやすいって昨日見たネットの記事に書いてあったの。今のも買ってすぐ壊れちゃって、ちゃんと充電できなくなっちゃったでしょ?だから、今度は優しく扱ってね?できれば、家用のはコンセントは入れっぱなしで」
家用と持ち歩き用にと2つ買い求めたスマホ充電器を手に、満足そうにそう俺に語る彼女。
「入れっぱなし、ねぇ」
「うん。コンセントにね。入れたり抜いたりするより長持ちするんだって」
「入れたり抜いたり、ねぇ」
「うん。充電する時もね、あんまり頻繁に入れたり抜いたりしないでね?」
「優しく扱う、ねぇ」
「そう。乱暴にしないでね?またすぐ壊れちゃうから。充電器だって、精密機器なんだからね?」
ひとつひとつ確認し、安心はしつつも俺は複雑な気持ちだった。
俺の頭がエロ過ぎるだけなのか?
そうじゃないよな?
あの状況であの内容なら、ほぼほぼ100%エロい話で間違いないだろっ?!
「ん?どうかした?」
キョトンとする彼女に、俺は言ってやった。
「可愛い顔して紛らわしいことを言うんじゃない」
彼女は相変わらずキョトンとして俺を見ている。
「紛らわしいこと?私なんか、変な事言った?」
まぁいい。
今夜早速試してみようじゃないか。
彼女が俺に要望したことを、全部、な。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます