第4話 美少女がややこしい
午前の授業が終了した。
今日も今日とて俺は、翔太と一緒に昼休みを過ごす。
一緒に購買で買ってきたパンを食べながら、いつも通り他愛のない会話を楽しんでいる。
そして教室の端では、そんな俺達のことを見守るように優やその友達がこちらを見てきていることに気付く。
――やっぱり、今日も見てるなぁ。
これは別に、今日始まったことではない。
けれど昨日の一件があったことで、これまでとはどこか違うように感じられるのはきっと気のせいではないだろう。
俺の視線に気付いた優は、またしてもグーポーズを向けてくる。
それはやっぱり意味不明なのだが、とりあえず俺もグーポーズを返しておく。
すると優やその友達は、またキャッキャと喜び合っているのだから全くもって意味不明である。
「ん? どうした?」
「ああ、いや、何でもないよ」
不思議そうに首を傾げる翔太は、変わらず今日もイケメン大明神だ。
もしも翔太に「実は神なんだ」と告白されても、俺はきっと何も疑うことなく信じてしまうかもしれない。
まぁ何を言っているか自分でもよく分からないが、それぐらい翔太は今日も安心のイケメン大明神なのである。
「ねぇねぇ、日比谷くん」
すると、そんな一人納得している俺に声をかけてくる女子が一人。
振り向くとそこには、木島さんが立っていた。
男子達が可愛いと噂するほど、クラスでも人気な美少女の一人だ。
茶色がかったショートヘア―に、健康的な白い肌。
頬っぺたはマシュマロのようにもっちりしているようで、大きなクリクリとした瞳が特徴的な、小動物のような可愛らしい女の子だ。
何て言うか、一言で言うなら男が好きなタイプを具現化したような、そんな分かりやすい可愛らしさがある。
「次の授業は音楽だけど、どっちが電気消す?」
木島さんの言葉に、そうだったと思い出す。
俺と木島さんは、実はこのクラスの『省エネ委員』仲間。
そんな俺達に与えられた役割とは、移動教室前に教室の電気を消すだけという、このクラスで一番楽な委員活動である。
クラスで男女一名ずつ、見事楽な仕事を勝ち取った俺と木島さんは、言ってしまえばちょっとしたビジネスパートナー。
次の音楽のように移動教室が伴う場合、こうして場当たり的にどっちが電気を消すかの相談をするのである。
「あー、前回は木島さんにやって貰ったし、今回は俺が消すよ」
「いいの? それじゃ、今回はお願いしちゃおうかな」
「あいよ、任せてガッテン!」
ふざけて自分の胸をトントンと叩くと、木島さんはおかしそうに笑いながら女子達の輪へと戻って行った。
「何だかさ、亮と木島さんって相性いいよな」
「相性?」
「そう、なんか自然に笑い合ってる感じがさ」
そんな俺と木島さんのやり取りをすぐ隣で見ていた翔太は、一人納得するようにそんなことを言ってくる。
しかしそれは、大きな間違いだ。
俺と木島さんの相性がいいのではなく、木島さんは基本的に誰とでもさっきみたいに気さくに接してくれる良い人なだけだ。
しかし、そんなことをわざわざ必死に否定するのもアホらしいので、ここは「そうかもな」と笑って流す。
もし仮にそれが真実ならば、満更じゃないかもなとか思いながら。
◇
誰もいなくなったことを確認して、教室の電気を消す。
これにて、俺の委員活動は終了である。
ちなみに翔太には、先に音楽室へ行って貰っている。
俺は委員会活動と名目が立つからいいが、翔太まで次の授業に間に合わないとなると流石に不味いという理由から。
「よし、俺も行くかな」
一仕事終えた俺は、今日も働いた自分を労いつつ遅れて音楽室へ向かう。
しかし、そんな俺の背中を後ろからいきなりツンツンとつつかれる。
「うぉ!? な、何!?」
「あははは、驚いた?」
驚いた俺が変な声を上げると、後ろからおかしそうな笑い声が聞こえてくる。
振り返るとそこには、先に教室へ向かっているはずの木島さんの姿があった。
「え!? 木島さん!? ど、どうして!?」
「んー? まぁ何て言うか、ノリ?」
どうしてと驚く俺に、おかしそうに悪戯な笑みを浮かべる木島さん。
普段は温和でフワフワした印象があったただけに、そんな木島さんの反応は少し予想外だった。
「授業遅れちゃうよ?」
「わたしも省エネ委員だからセーフだよ、セーフ」
焦る俺のことを楽しむように、そうあっけらかんと答える木島さん。
まぁ確かに、同じ省エネ委員だから問題はないのかもしれない。
けれど、昼休みに今日は俺が電気を消すと伝えていただけに、何故こうして木島さんが残っていたのか訳が分からない。
しかしその理由は、木島さんの次の一言で明らかになる。
「全然話変わるんだけどさ、日比谷くんって加賀美くんと仲いいよね?」
隣を歩きながら、木島さんは俺に翔太との仲について聞いてくる。
その一言で、鈍感ではない俺は全て察しが付いてしまう。
日頃から一緒にいる俺達を見ていれば、仲が良いことなんて一目瞭然。
そのうえで、敢えてこうして話を切り出す理由はたった一つだろう。
優と同じく、木島さんもまた翔太に気があるのだろう――。
「そうだね、仲良いよ」
「やっぱりそうだよね? 良いよね、仲良しがいるのって」
そう言って木島さんは自然に微笑んでいるが、この会話はただの前置き。
これから何を言われるのかと身構えていると、一呼吸置いて木島さんは再びその口を開く。
「――わたしもさ、加賀美くんと仲良くなりたいなぁって思うんだよね」
俺の前に回り込んだ木島さんは、そう言って下から覗き込むように、その顔をグイっと俺の顔へ近付けてくる。
「だから日比谷くん? わたしも加賀美くんと仲良くなれるように、協力して欲しいの」
その言葉に俺は、またかと思う。
そして目の前の木島さんの表情は、微笑んではいるけれど張り付いたような、作りものの笑みに思えてくるのはきっと気のせいではないだろう――。
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