このラブコメは、ややこしい!!

こりんさん@コミカライズ2巻5/9発売

第1話 幼馴染がややこしい

 俺の名前は日比谷亮ひびやりょう。高校一年生。


 高校に入学して暫く経ち、ようやく新しい学校や同級生にも馴染んできたところだ。


 まぁそんな、どこにでもあるような普通の高校に通う普通の男子高校生の俺は、今日もクラスの男子達とバカ話をしながらそれなりに楽しく過ごしているのであった。


「なぁお前ら? ぶっちゃけさ、このクラスで一番可愛いと思うのは誰だ?」


 次の授業は体育。

 女子の出払った教室内で着替えていると、クラスのお調子者がみんなにそんな質問をしてくる。


「んー、そうだな。やっぱ大滝おおたきさんじゃね? クールビューティーって感じでいいよな」

「えー、俺は木島きじまさんかなぁ。あの愛くるしい感じがたまらん!!」


 大滝さんは美人系で、木島さんは可愛い系。

 確かにみんなの言う通り、二人とも俺の目から見ても美少女と呼ぶに相応しい女子だと思う。

 他の男子達も概ね同意なのか、納得するようにうんうんと頷いている。


「あとは、秋月あきづきさんとかも顔は可愛いと思うけど……まぁ、あれはダメだな」

「あはは、そうだな」

「なんつーか、残念系だよなぁ」


 そして、もう一人名前の挙がった女子の名は、秋月優あきづきゆう――。

 先の二人と同じく、みんなその容姿は認めるものの、あれは無しだと口を揃える。


 何故彼女の時だけ、みんなのリアクションがこうも微妙なのか。

 それには、物凄く分かりやすい理由がある。


 それは――秋月優は、所謂腐女子なのだ。それも重度の――。


 スクールバッグには、BLゲームの缶バッチやキーホルダーなどをじゃら付け。

 筆記用具なんかも、基本的に揃えられるものは何でもそっち系のグッズで固められている。

 そして彼女自身、その容姿は確かに美少女なのだが、他の女子達がスカートを短くしたりある程度着崩しているところ、彼女はスカート丈をしっかり膝下まで伸ばしている。

 まぁ良く言えば、それこそが正しい制服の着こなしと言えるだろう。

 しかし、特にヘアセットもしてこないボサボサの髪型も相まって、どうしても周囲と比べると野暮ったい印象を抱いてしまうのである。


 ただその印象は、彼女の見た目のせいだけではない。

 彼女は高校でもたまたま同じクラスになった、中学の頃から仲のいいオタク仲間の女子と共に、暇さえあればBLの話などで盛り上がっているのだ。


 その振舞いは、完全に周囲の男子達をシャットアウトしているかのようで、もう彼女が見ている世界は完全に別のどこかにあるのだろう。

 そんな彼女だから、クラスのみんなは彼女の話題になると、一様に苦い表情を浮かべるのであった。


 そんなわけで、ある意味クラスで一番キャラが濃いと言っても過言ではない秋月優。

 そんな彼女だけれど、実はまだみんなの知らないことが一つあったりする。



 それは、俺と秋月優が実は幼馴染であるということ――。



 優の家は、俺の家と道を挟んで向かい合わせのところにある。

 そんなご近所育ちな俺達は、親同士も仲がよく、幼い頃はよく家族ぐるみの付き合いをしていた。


 だから俺は知っているのだ。

 優自身、昔から今みたいな性格だったわけではないということを。

 昔の優は、もっと活発で素直な明るい性格をしており、周囲と比べても自然と目立ってしまうような女の子だった。


 だから俺にとっても、そんな優と幼馴染であることは少し自慢だったりもしたのだ。

 幼馴染みとして、お互い傍にいるのが当たり前だったことに、俺は周囲に対して少しだけ優越感みたいなものを覚えていたぐらいに。


 そんな俺と優の関係は、小学生の高学年になっても続いており、その頃には俺も一つの感情を自覚するようになっていた。


 俺は、秋月優に友達以上の感情を抱いてしまっているということを――。


 それは、紛れもなく俺の初恋だった。

 あの頃の自分は、優と一緒にいるだけで毎日ドキドキしっぱなしだった。


 でもそんな日々は、いつまでも続くことはなかった。

 ある日を堺に、優はまるで別人のように変わってしまったからだ……。


 あれは、中学生になって暫く経った頃。

 一体何があったのかは知らないが、気が付くと優は変わってしまっていたのだ。

 自分の殻に閉じこもるように、控えめな性格へと変わってしまっていた。

 かつての明るかった性格はどこかへ消え去り、何か悩み事を抱いているように、俺や周囲と距離を置くようになってしまっていたのだ。


 その理由は分からないが、今にして思えば中学生という思春期。

 優が変わってしまったように、俺は俺で優とは距離を置くように変わってしまっていたのだ。

 理由は何てことはない、女子と一緒にいることで馬鹿にされるんじゃないかという逃げ。

 今にして思えば、ただの気にしすぎだと思うし、馬鹿馬鹿しい感情だったと思う。

 それでも中学生の頃の俺は、周囲の目というものを気にしてしまっていたのだ。

 その結果、クラスも別々の俺達は次第に疎遠になり、そのまま中学を卒業する頃には会話をすることすら無くなってしまった。

 まるで元々、他人同士であったかのように――。


 きっと初恋なんてものは、みんなこんなものなのだろう。

 現実の幼馴染なんて、アニメやマンガの世界のように特別なヒロインではないのだ。


 まぁそんなわけで、実は俺と優は幼馴染という関係なのだが、今は仲が良いわけでも悪いわけでもないほぼ他人同士。

 そんな優と、高校で同じクラスになったことには少しだけ驚いたけれど、だからといって今日まで何があるわけでもなく、変わらずお互いただのクラスメイトとして過ごしているのであった。



 ◇



「亮、購買行こうぜ」


 昼休み。

 声をかけてきたのは、同じクラスの加賀美翔太かがみしょうた


 翔太と言えば、身長は180センチ手前の長身に、その中世的な顔立ちはテレビの向こう側で見る男性アイドルにも引けを取らない程の美男子だ。

 そんな翔太とは高校で初めて知り合ったのだが、なんか意気投合して今では一番仲の良い友達だったりする。


 だからまぁ、いつも傍にいる俺は翔太が相当にモテていることを知っている。

 一緒に廊下を歩けば、すれ違う女子達から向けられる熱い視線。

 それが俺ではなく、隣の翔太へ向けられていることは言われなくても分かっている。


 けれど翔太は、そんな女子達のことはあまり気にかけておらず、本当にアイドルのように全てを受け流しているのである。


「翔太はさぁ、彼女とか作らないのか?」


 一緒に購買へと向かいながら、俺はそんな疑問を翔太へ投げかけてみる。


「何だよいきなり? まぁそうだな、今は必要ないかな」

「何でだ? 彼女、欲しくないのか?」

「んー、まぁそれよりも、今は男同士で遊んでる方が楽しいからね」


 だから彼女は必要じゃないんだと、爽やかに笑い飛ばす翔太。

 これがイケメンの余裕というやつなのだろうか。

 俺とは違いすぎるその価値観は理解出来ないものの、翔太がそう思うのならそれが全てだった。


「逆に亮は、彼女欲しいのか?」

「え、俺?」

「そう、好きな子とかいないの?」

「す、好きな子かぁ……」


 どうなんだろうか。

 もう正直、そういう感情は自分でもよく分からなくなっているのかもしれない。


 俺の初恋は、間違いなく秋月優だ。

 でもその恋心は、中学の時に枯れてしまった過去のもの……。


 あれから俺は、何か特別な感情を抱いたことがあっただろうか。

 女子に対して、可愛いとか美人だとか思う自分はいるし、誰かと付き合ってみたいとも思っている。

 でも、特定の誰かともっとお近づきになりたいのかというと、それはちょっと違うというか……。


「ま、亮もその気じゃないなら、今は男同士気楽に楽しもうぜ」

「……そうだな」


 翔太の言う通り、今は気の合う男同士で遊んでいるだけで十分だ。

 他の男子ならともかく、翔太にそう言われるとそれで良い気がしてくるから不思議だ。

 

 まぁそんなこんなで、購買でパンを買ってきた俺達は、いつも通り他愛のない会話を楽しみつつ昼休みを過ごしている。

 しかし、当然教室内にいても、クラスの女子達からの視線がこちらへ向けられていることに俺は気付いている。


 今となってはもう慣れたものではあるのだが、それでも一つだけずっと気になっていることがある。

 それは、こちらへ向けられる視線の中に混ざって、教室の端から明らかに異質な熱い視線が向けられていることだ。


 その視線は、鋭いけれど敵意があるわけではなく、例えるならとても興味津々な感じというか……。


 そして何より、その視線の送り主があの秋月優であることが、俺はどうしても気になってしまっているのだ。


 翔太に対して、背中越しに熱い視線を送り続けている優の姿――。

 そんな光景を前に俺は、また今日も少しだけ胸にチクリとした痛みを覚えるのであった。



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<あとがき>

物語が進むにつれて段々ややこしくなってくるので、対戦よろしくお願いします!!

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