37話:友情 ~ それを覆すのがボクの使命だよ ~

 ~ ログハウスの脱衣所にて ~


 唯一の男性である彩人あやと一人をリビングスペースに残し、いちご達女性陣4人は温泉に入ることとなった。

 当初の予定ではプライベートビーチで遊ぶ筈だったものの、それが「雪雲」にて予定変更となった流れだ。

 海で泳げないのは残念なものの、ダークエルフの少女:エリスの目的を達成する上では、むしろこちらの方が好都合だった感もある。


 というのも。

 これまた木の温もりを感じる脱衣所に入り、真っ先に素っ裸となったエリスが――装着かぽっ


「おぉ~、イヌガミイチゴの“ぶらじゃー”は大きいのだ。頭に被れるのだ」


「エリスちゃん、恥ずかしいからやめて」


 いちごが外したばかりの「ブラ」を奪い、頭に被ったエリス。

 顔を赤らめるいちごの注意を無視し、遅れて生まれたての姿となった兎衣ういの前で恍惚の表情を浮かべる。


「はぁ~~ッ、やっぱりウイ姉様ねえさまの裸体は神聖です!! 女神の様な神々しさです」


「ははっ、全くエリスは大袈裟だなぁ」


「大袈裟なモノですか。本当のことを言っているまでのこと」


「そう? まぁ真剣な顔でそう言ってくれるのは嬉しいけど、頭に被ってる物のせいで誠意は全く感じないけどね。……どれ、ボクもいちご君のブラを被ってみるか」


兎衣ういちゃん!?」


 サイズ感に興味があったのか。

 兎衣ういがエリスの頭からブラを外し、恥ずかしがること無く自分の頭に装着かぽっ

 その感想は――


「……馬鹿みたいな大きさだ。これで彩人あやとを馬鹿みたいに誘惑する訳か」


「ちょっと兎衣ういちゃん、言い方!! 別に誘惑してる訳じゃないしッ」


「いいや、誘惑してるね。童顔で小さくて巨乳とか、狙ってやってるとしか思えないよ。ビクトリアさんもそう思うでしょ?」


「え?」


 話を振られるとは思っていなかったのだろう。

 馬鹿話をしていた3人を無視して大浴場に出ようとしていたビクトリアが脚を止め、それからマジマジといちごの胸を凝視。

 続けて兎衣ういの胸を凝視して、エリスに関してはスルーし、最後は自分の胸に手を当てる。


 何がとは言わないが、サイズ的には「いちご >>> 兎衣うい > ビクトリア >>> エリス」といったところで、この事実を踏まえて一言。


「私、まだまだ成長期ですから」



 ■



 ~ 大浴場にて ~


 世話係:ビクトリアが成長期かどうかはさておき、素っ裸のまま脱衣所にいては風邪を引く。

 胸のサイズでアレコレ言うのが馬鹿らしい(&虚しい)ので、女性陣は早々に会話を切り上げて大浴場へ足を踏み入れた。


 まぁ大浴場と言っても、昨日の「道の駅」にあった温泉みたいな何十人も入れる程の広さは無いが、それでも一般家庭の風呂と比べたら大違い。

 ログハウスの壁と竹垣に囲まれた雰囲気のある温泉は、海に面した方向だけ視界が開けており、ここからもオーシャンビューを楽しむことが出来る。


「わぁ~、温泉から海が見えるよ。しかも屋根付きだし、最高のロケーションだね」


 タオルで前を隠しつつ、興奮気味に声を上げたいちご

 その隣では、これまたタオルで前を隠す兎衣ういがエリスの頭を撫でる。


「グッジョブだよエリス。これなら雪雲を連れて来ても大丈夫そうだね。むしろ雪を眺めながら温泉に入れるとか最高かも」


「当然です。その為に“魂乃炎アトリビュート”を発動したのですから」


 嘘も方便えっへんと、自慢気に胸を張ったエリス。

 その後はいの一番に湯船へ飛び込もうとするも、彼女の小さな首根っこを掴み、世話係:ビクトリアが洗い場へ連れて行って座らせる。


「全く、学習しないお嬢様ですね。まずは洗体が先だと言ってるでしょう。ほら、髪を洗いますから目を瞑って下さい」


「むぅ~、だから自分で洗えるのだ。いつまでも子供扱いしてると怒るのだぞ」


「その言葉は入浴のマナーを守れるようになってから言って下さい。このシャワーは冷たくないですか?」


「ひゃッ!?」

 椅子から飛び跳ね、水に濡れたエリスがキッとビクトリアを睨む。

「冷たいのだ!! 温度を確認してからシャワーを当てるのだ!!」


「それは申し訳ありません。エリスお嬢様の冷えた身体を温めますので、全身全霊で私に抱き付いて下さい」


「な、何でなのだ? お湯を当ててくれたらそれでいいのだぞ」


「そう遠慮なさらず。裸のお嬢様を合法的に触りまくるチャンスですからね」


「ふ、風呂の時だけビクトリアの目付きが怖いのだ!!」


 と、何だかんだで仲の良い二人がスキンシップを図っている間に、いちご兎衣ういもそれぞれ洗体場へ。

 シャワーがお湯であることを確認して、髪の毛を濡らし始めたところで、シャワーの音に紛れて兎衣ういがポツリと口を開く。


いちご君、“さっきの件”は済まなかった」


「え? あぁ、ブラのこと?」


「いや、そっちじゃなくて。――愛情の大きさは主観でしか語れないのに、無理に順位を付けようとした。それも正妻を差し置いて“上”を行こうとしたことを謝るよ」


「あ~……え~っと、別に気にしてないと言うか、まぁ気にしてない訳じゃないけど……でも、私こそゴメンね。彩人あやと君のことになるとムキになっちゃって」


「だね。いちご君がムキになるから、ボクも柄になくムキになってしまった」

 落ち着いた声で、兎衣ういは淡々と喋る。

「だけどね、何度でも言うけどボクは本気だ。例え彩人あやとの中でいちご君が一番でも、ボクは本気で彩人あやとのことを想ってる」


「……うん、知ってる」


「だったら話は早い。ボクが彩人あやとを諦めることは無いから、いちご君が何処かで折れるしかないと言っておくよ」


「それは……私に対する宣戦布告?」


「違うね、友好条約というやつさ」


「私的には“敵対”だけど?」


「今はね。それを覆すのがボクの使命だよ」


 キュッと蛇口を閉め、おもむろに椅子から立ち上がった兎衣うい

 まだ髪の毛を濡らしただけで、彼女は椅子を置き直していちごの背後に座った。

 当然、いちごは警戒の視線。


「な、何?」


「友好条約を結ぶ為に、まずはボク等の友情を深めないとね。髪の毛を洗うのは良い手だと思って」


「それを口にしてる時点でどうかと思うけど……」


「口にしたからこそ無視出来ないというものだろう? ほら、シャンプー貸して」


 半ば強引にいちごのシャンプーを奪う兎衣うい

 いちごとしても抵抗は可能だっただろうが、とはいえ抵抗するような事態でもない。

 なし崩し的に髪の毛を洗って貰う流れとなり、兎衣ういの細い指がグイグイといちごの頭皮を刺激する。


(う~ん、何だか兎衣ういちゃんのペースに持って行かれてる気が……あーでも、人に頭洗って貰うのってやっぱり気持ち良いかも? これを彩人あやと君にやって貰う方法ないかなぁ……って、一緒にお風呂入らないと無理だよねぇ。でも二人でお風呂は恥ずかしいし……でもでも、グダグダしてたら兎衣ういちゃんに先越されそうな気もするし)


 などと桃色の脳内を展開しつつ。

 徐々に瞼が重くなり、夢心地ほんわか気分の犬神いぬがみいちご

 難しいことは一旦さて置き、今は流れに流されて兎衣ういに頭を任せていたら――



「あぁ~~ッ!!!!」



「「ッ!?」」


 小さく跳ねたビクッ

 突然の大声にいちご兎衣ういが跳び上がり、そこへ身体中に泡をくっ付けたエリスが駆け付ける。


「ウイ姉様ねえさまッ、何をやっているのですか!! 洗うならアタシの頭を洗って下さい!!」


 ――――――――――――――――

*あとがき

続きに期待と思って頂けたら、本作の「フォロー」や「☆☆☆評価」を宜しくお願いします。

お時間ある方は筆者別作品「■黒ヘビ(ダークファンタジー*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)」も是非。

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